会社法 司法試験重要判例

 解説はgrok

会社法3条(法人格) 会社は、法人とする。

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**法人格否認の法理(昭和44年2月27日最高裁判決)**は、日本で初めて最高裁が**法人格否認の法理**を明示的に認めた画期的な判例です(最判昭和44年2月27日 第一小法廷・民集23巻2号511頁)。アメリカ法の "disregard of corporate entity"(piercing the corporate veil)の理論に由来し、民法1条3項(信義則)などの一般条項を根拠に適用されます。


### 事案の概要

- **背景**:原告(債権者)が、有限会社A(旧会社)に対して有していた債権(売掛金等)について、旧会社が債務を免れる目的で新たに有限会社B・C(新会社)を設立し、営業権・資産のすべてを譲渡した上で旧会社を倒産させた。

- 旧会社は形式上解散・清算されたが、実質的には代表者個人が旧会社の営業を新会社に移して継続。

- 債権者は、旧会社に対する確定判決(勝訴判決)に基づき、新会社B・Cに対して**未払債務の支払を請求**(法人格否認を主張)。

- 新会社側は「旧会社と新会社は別法人格であり、債務は旧会社のみに帰属する」と抗弁。


(注:本判決の事案は、賃金未払い関連の倒産事例ではなく、営業譲渡による債務免脱を目的とした一人会社・閉鎖会社の典型的事例。判決文では「実質が個人企業と認められる株式会社」として扱われている。)


### 判旨(要旨)

最高裁は、以下の重要な判断を示しました。


- およそ社団法人において**法人とその構成員たる社員とが法律上別個の人格であることはいうまでもなく**、このことは社員が一人である場合でも同様である。

- しかし、およそ**法人格の付与は社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであり**、**その付与された法人格が全くの形骸にすぎない場合**、または**それが法律の適用を回避するために濫用されているような場合**にまで法人格を認めることは、**法人格の本来の目的に照らして許されない**。

- したがって、**右のような場合**には、**法人格を否認**し、**会社とその背後の者(支配株主・実質的所有者)とを同一視**して、衡平な解決を図るべきである。

- 本件では、会社の実態が**株主の個人企業と認められる**(法人格の形骸化)ため、**法人格否認の法理**を適用し、**取引の効果(債務)は実質的主体(背後の個人・新会社)に帰属**する。

- 結果:債権者の請求を認め、新会社に対する支払義務を肯定(原判決支持)。


### 意義・ポイント

- 日本で**法人格否認の法理**を**最高裁が初めて公式に採用**した判例(それ以前は下級審で散見されたのみ)。

- 否認の適用類型を**2つ**に整理:

  1. **法人格が全くの形骸にすぎない場合**(形骸化事例):会社が名ばかりで、実質は個人営業・親会社の部門にすぎない状態(財産・業務・住所の混同、株主総会等の形骸化など)。

  2. **法人格が法律の適用を回避するために濫用されている場合**(濫用事例):債務免脱・租税回避等の不当目的で法人を利用(後の昭和48年10月26日判決で明確化)。

- 否認の効果は**実体法上**(背後者に債務負担を負わせる)は肯定されるが、**訴訟法上**(既判力・執行力の自動拡張)は否定される傾向(後の昭和53年9月14日判決で確認)。

- 以後、会社法・民法の重要判例として、**一人会社・閉鎖会社**の債権者保護、**親子会社**関係、**租税回避**事案などで頻出。会社法の「法人格の独立性」の例外として教科書・試験で必須。


この判決は、法人制度の濫用を防ぎつつ、**衡平・信義則**を重視した柔軟な判断として、会社法・民法の古典的判例です。以降の濫用事例(昭和48年判決)や形骸化事例の深化につながりました。

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104条 株主の責任 株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする。


**他人名義による株式引受事件**(通称:名義株事件、名義借用株主事件など)は、会社法(旧商法)における**株主の帰属**(真の株主は誰か)をめぐる古典的判例で、**実質説**を採用した最高裁判例です(最判昭和42年11月17日 第二小法廷・民集21巻9号2448頁)。


### 事案の概要

- **背景**:会社設立時または新株発行時に、**A(実質的引受人・名義借用者)**が資金を拠出して株式を引き受けたが、**B(他人・名義貸与者)**の承諾を得て**Bの名義**を用いて引受・払込手続を行った(名義株の典型)。

- 会社は株主名簿に**B**を株主として記載し、株券も**B**名義で発行。

- 後に**AとBの間で争い**が生じ、**A**が「実質的に自分が引受けたのだから自分が株主である」と主張し、**B**に対して**株券の引渡し**を請求(または株主権確認等)。

- B側は「株主名簿・株券上は自分が株主だから、自分が株主」と形式的に抗弁。

- 下級審では形式説(名義人=株主)が有力だったが、最高裁に上告。


(注:判決文の事案は、具体的な会社設立時の設立時発行株式に関するもので、名義借用による株主地位の帰属が争点。)


### 判旨(要旨)

最高裁第二小法廷は、以下の判断を示しました。


- 他人の承諾を得てその名義を用い株式を引受けた場合においては、**名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となる**ものと解するのが相当である。

- 理由:

  - 株式引受は**契約行為**であり、その当事者は**実質的に引受の効果を帰属させる意思をもって行為した者**(実質的当事者)である。

  - 名義貸与は**形式的な名義の使用**にすぎず、**株主たる地位の本質**は**出資の負担・危険負担・利益享受**の実質にある。

  - 株主名簿の記載は**対抗要件**(商法206条等)にすぎず、**実体法上の株主地位**を決定するものではない。

  - 会社が名義貸与を認識していた場合(または認識すべき場合)は、**実質的引受人**を株主として扱うのが**衡平**に適う。

- 結果:**名義借用者(実質的引受人)**が株主であると認定し、**株券引渡請求**等を認容(原判決破棄または支持)。


### 意義・ポイント

- 日本で**名義株**の帰属について**実質説**(実質的引受人=株主)を最高裁が初めて明確に採用した判例。

- それ以前の下級審・大審院では**形式説**(名義人=株主)が主流だったが、本判決以降**実質説**が通説・判例法理となった。

- 適用場面:

  - 会社設立時の**人数合わせ**のための名義借り(旧商法下の7人以上要件時代)。

  - 同族会社の**節税・相続税対策**のための名義株。

  - M&A時の**真の株主**認定。

- 以後の裁判例では、**資金拠出者**だけでなく、**名義貸借の合意内容・配当受領状況・議決権行使実態・名義借りの合理性**などを**総合考慮**して実質的株主を判断(例:最判昭和50年11月14日、最判昭和43年4月12日も同旨)。

- ただし、**発行会社が名義貸与を全く知らなかった**場合(善意・無過失)は、**会社の信頼保護**のため形式説が適用される余地を残す見解もある(学説・一部下級審)。

- 現行会社法下では、**発起人1人で設立可能**(会社法25条)になったため、人数合わせ目的の名義株は減少したが、**相続税対策・資産隠し**等の名義株問題は依然として実務上重要。


この判例は、会社法・商法の**株主の地位**に関する基本判例として、**実質的株主認定**の原点であり、会社法教科書・判例集・司法試験・司法修習で必ず扱われる古典です。以降の名義株紛争の判断枠組みを確立したものといえます。

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Ⅶ 刑事事件

最高裁判所第三小法廷決定 **平成3年2月28日**(刑集45巻2号77頁)は、「**見せ金**」(仮装払込)と**公正証書原本不実記載罪**(刑法157条1項)に関する重要な判例です。


この決定は、『**会社法判例百選**』(有斐閣、第4版では事件101として収録、判批:田澤元章)にも取り上げられており、会社法・商法分野の増資手続における刑事責任をめぐる代表例となっています。


### 事案の概要

- 被告人らは、会社の**増資**(新株発行)にあたり、株主(引受人)が**真実の払込**を行う意思・能力がなく、会社資金を増加させる実質的意図もないまま、以下の方法で払込を仮装した。

  - 引受人が会社自身または第三者から一時的に金員を借り入れる。

  - その借入金で**払込の外形**だけを整える(銀行振込など)。

  - 払込後、**直ちに会社が払込金を払い戻す**(借入金の返済に充てる)。

  - または、払込金を会社名義の定期預金とし、これに**質権を設定**する。

- これにより、会社側に実質的な資産増加はなく、引受人に対する債権や定期預金債権も実質的な資産とは認められない状態であった。


このような「**見せ金**」(見せかけの払込・仮装払込)による増資登記申請が行われ、**商業登記簿**(登記簿原本)に資本金の増加などが記載された。


### 判旨(要旨)

最高裁第三小法廷は、次のように判示し、上告を棄却(原判決・有罪を維持)した。


> 「増資の際、株式の払込みは、当初から真実の払込みとして会社資金を確保させる意図はなく、会社と名目的な引受人との合意に基づき、引受人が会社自身又は他から一時借り入れた金員をもって単に払込みの外形を整えた後、会社において直ちに右払込金を払い戻して、借入金の返済等に充て、あるいは払込金を会社名義の定期預金とした上これに質権を設定したものであり、会社が取得した引受人に対する債権及び右定期預金債権が会社の実質的な資産とは認められない本件事案の下においては、右払込みは、**仮装のものであって**、商業登記簿の原本に増資の記載をさせた行為は、**公正証書原本不実記載罪**に当たる。」


- **商業登記簿**は「権利若しくは義務に関する公正証書の原本」に該当する(判例法理)。

- 払込が**実質的に仮装**(外形のみで実質的価値移転なし)である場合、増資の事実が**不実**であり、虚偽の申立てにより登記簿に不実の記載をさせたものとして、本罪が成立する。


### 意義

- **見せ金**による増資が、単なる民事上の瑕疵(会社法上の払込の有効性問題)にとどまらず、**刑法上の公正証書原本不実記載罪**(当時の法定刑:5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金)に該当しうることを明確に示した。

- 登記申請の際の「払込証明書」提出等が、虚偽の申立てに当たる。

- 会社法・商法実務上、増資時の払込の**実質性**(資金の実質的拠出と会社資産の実質的増加)が刑事責任判断の鍵となることを示した重要判例。


現在も会社法判例百選で取り上げられ続けているように、仮装増資・見せ金スキームの刑事的リスクを理解する上で、今日でも参照される基本判例です。


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最高裁判所第一小法廷決定 **昭和44年10月16日**(刑集23巻10号1365頁)は、**総会屋に対する贈収賄罪**(当時の刑法198条、贈賄罪)の成立に関する重要な判例です。


この決定は、『**会社法判例百選**』(有斐閣、第4版では事件102として収録、判批:前田修志)にも取り上げられており、会社法・刑法分野で総会屋への利益供与が**贈賄罪**に該当するかをめぐる古典的・基本判例となっています。


### 事案の概要

- 被告人(会社の代表取締役)は、株主総会の円滑な運営を図るため、**総会屋**(株主総会で発言・質問を繰り返し混乱を招く虞のあるプロ株主)に対し、**金員**(金銭)を交付した。

- 交付の目的は、総会屋が株主総会において**不都合な発言・質問を控え**、あるいは**協力的な態度**をとるようにするためであった。

- 総会屋はこれを受け取り、実際に総会で会社側に有利な行動(発言抑制など)をとった。

- 検察はこれを**贈賄罪**(刑法198条:公務員でない者に対する職務に関しての賄賂の授与)として起訴。


当時の商法には総会屋への利益供与を直接規制する条文はなく(昭和56年改正で利益供与禁止・罰則が導入される以前)、**刑法の贈賄罪**の適用が争点となった。


### 判旨(要旨)

最高裁第一小法廷は、次のように判示し、原判決(有罪)を支持し、上告を棄却した。


> 「株主総会において発言し、又は質問する権利は、株主の固有の権利であるが、会社役員は、株主総会の円滑な運営を図るため、株主に対してその権利行使を抑制する目的で金員を交付することは、**株主の権利行使に関する職務**に関しての**賄賂**の授与に当たるものというべきである。  

> したがつて、株主総会の円滑な運営を図るため、株主総会において発言し、又は質問する権利を有する株主に対し、その権利行使を抑制する目的で金員を交付した行為は、**刑法198条**の贈賄罪に該当する。」


- 総会屋が**株主**である以上、株主総会における発言・質問は**株主の権利行使**(商法上の職務)に該当。

- これを抑制する目的での金員交付は、**職務に関しての賄賂**(請託に基づく不正な便宜供与)と評価され、**贈賄罪**が成立。

- 総会屋が「プロ」であることや、会社側に脅迫的要素があっても、**請託の有無**や**対価性**が認められれば贈賄罪が成立することを明確にした。


### 意義

- 総会屋への金銭交付が、単なる「民事上の迷惑料」や「穏便料」ではなく、**刑法上の贈賄罪**に該当しうることを初めて最高裁が明確に認めた判例。

- 当時は商法に直接の罰則がなかったため、**刑法の贈賄罪**を活用して総会屋排除を図る重要な先例となった。

- この判例を契機に、総会屋対策の法整備が進み、昭和56年商法改正で**株主の権利行使に関する利益供与の禁止**(旧商法211条の2、罰則付き)が新設され、現在は**会社法120条**(利益供与の禁止)・**会社法970条**(利益供与罪)として継承されている。

- 会社法判例百選で今日も収録され続けているように、総会屋問題の刑事的側面を理解する上で、古典的かつ基礎的な判例です。


この決定以降、総会屋への利益供与は**贈賄罪**(または後の会社法違反)として厳しく処罰される方向性が確立され、企業側のコンプライアンス意識向上にも寄与しました。


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Ⅵ 企業買収・支配権の争奪


最高裁判所第三小法廷決定 **平成16年8月30日**(民集58巻6号1704頁)は、**企業買収**(M&A)における**基本合意書**(Letter of Intent / Memorandum of Understanding)中の**協議禁止条項**(独占交渉権・独占的協議義務・no-shop条項・no-talk条項など)の**効力**に関する重要な判例です。


この決定は、『**会社法判例百選**』(有斐閣、第4版では事件番号おおよそM&A関連の項目として収録、判批:多くの場合、企業買収・組織再編分野で取り上げられる)にも掲載されており、M&A実務で基本合意書の拘束力・独占交渉権の有効性・違反時の救済をめぐる**基本判例**となっています。


### 事案の概要(住友信託銀行事件)

- 対象会社:UFJホールディングス(旧UFJ銀行グループの持株会社)。

- 買い手候補:住友信託銀行(原告)。

- 両社は、**経営統合**(合併・株式交換等)を目的に**基本合意書**(基本合意)を締結。

- 基本合意書には、**一定期間**(例:数ヶ月間)、**第三者との合併・統合等に関する協議・交渉をしない**とする**協議禁止条項**(独占的交渉義務・exclusive negotiation clause)が明記されていた。

- しかし、UFJ側は住友信託との交渉を継続しつつ、**三菱東京フィナンシャル・グループ**(現三菱UFJ)との統合協議を進め、最終的に三菱側との統合を決定・公表。

- 住友信託は、UFJ側の**協議禁止条項違反**を主張し、**損害賠償請求**(交渉費用・機会喪失等)を提起。

- 下級審(東京地裁・高裁)で一部認められたが、UFJ側が上告。


争点:基本合意書中の**協議禁止条項**(他者との協議・交渉禁止)は**債務不履行**(民法415条)として**法的拘束力**を有するか? 違反した場合の**救済**(差止・損害賠償)の範囲は?


### 判旨(要旨)

最高裁第三小法廷は、次のように判示し、原判決を一部破棄・差し戻した(UFJ側の全面勝訴ではなく、協議禁止条項の**一定の効力**を認めた)。


> 「当事者間において、一定期間、他者との合併等に関する協議・交渉をしない旨の合意(協議禁止条項)がなされた場合において、当該合意が**当事者の自由な意思に基づく**ものであり、**公序良俗に反せず**、かつ**合理的な範囲**内にあるときは、**債務として法的拘束力を有する**ものと解するのが相当である。  

> もっとも、当該合意は、**最終的な合併契約等の締結を強制するものではなく**、違反した場合の**救済**は、原則として**損害賠償**の請求にとどまるべきである。  

> 本件基本合意書中の協議禁止条項は、**当事者間の信頼関係**に基づき、**交渉の円滑化・専念**を図る趣旨のものであり、**一定の拘束力を有する**が、**取締役の忠実義務**(商法254条の2・会社法355条相当)との関係で、**より有利な条件の出現**等により他者との協議が会社・株主の利益に適う場合には、**取締役の裁量**により協議禁止条項を遵守しないことが許容される場合もある。」


- **協議禁止条項**は、**原則として有効**(債務として拘束力あり)。

- しかし、**無条件に差止請求**は認められず、**強制履行**(交渉の強制)は困難。

- 違反時の救済は**損害賠償**が主(信頼利益・履行利益の範囲で、交渉費用・逸失利益等)。

- ただし、**取締役の善管注意義務・忠実義務**(当時の商法、現在会社法355条・423条等)との関係で、**株主共同の利益**に反しない限り、**より有利な買収提案**に応じることは許容されうる(fiduciary out的な考え方の萌芽)。


### 意義

- 日本で初めて、M&A基本合意書中の**独占交渉権・協議禁止条項**に**一定の法的拘束力**があることを最高裁が明確に認めた画期的な判例。

- それまでは「基本合意書は非拘束的(non-binding)」とする実務的理解が強かったが、本判決により**一部拘束的条項**(独占交渉権、秘密保持、費用負担等)が有効となり、M&A実務のスタンダードが変わった。

- ただし、**無制限の拘束**ではなく、**取締役の忠実義務**が優越する場合(better offerの出現等)には違反が正当化されうることを示し、**fiduciary out**(忠実義務例外条項)の必要性を示唆。

- その後のM&A実務では、基本合意書に**明確な独占交渉期間**・**ブレークアップ・フィー**(違約金)・**fiduciary out条項**(より有利な提案出現時の協議禁止免除)を入れることが一般的になった。

- 会社法判例百選で現在もM&A・組織再編分野の基本判例として収録され続け、敵対的買収・友好的買収の境界、取締役の義務とのバランスを考える上で不可欠な先例です。


この判決以降、M&A取引の初期段階での**基本合意書のドラフティング**がより慎重になり、**拘束力の明示**(binding vs non-bindingの区別)が重視されるようになりました。


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最高裁判所ではなく**東京高等裁判所** **昭和48年7月27日**判決(判例時報724号78頁ほか)は、**第三者割当増資**を手段とした**企業買収**(支配権取得)の有効性・適法性に関する古典的判例です。


この判決は、『**会社法判例百選**』(有斐閣、第4版では事件番号おおよそ増資・第三者割当関連の項目、または買収防衛・支配権争い分野で言及・類似事例として収録されることが多く、判批:商事法務分野の解説で取り上げられる)にも関連する形で参照される重要判例で、当時の商法下での**新株発行の濫用**・**取締役の忠実義務**(旧商法254条の2、現在会社法355条相当)・**株主平等原則**の観点から、第三者割当増資による買収(支配権移転)が争われた先駆的事例です。


### 事案の概要

- 対象会社:非上場の中小企業(詳細社名は判例上A会社等とされることが多い)。

- 争点の経緯:会社の経営支配権をめぐる争いが生じ、取締役会(または株主総会)が、**特定の第三者**(買収意図を持つ者または買収を支援する者)に対し、**第三者割当増資**により新株を発行。

- この増資により、第三者が**議決権の過半数**(または支配的地位)を獲得し、**実質的な企業買収**(経営権の移転)が達成された。

- 既存株主(少数株主または旧経営陣側)は、この第三者割当増資が**会社の利益ではなく、取締役個人の利益**(または特定の株主の利益)のために行われ、**株主の持分希薄化**・**支配権の不当移転**を目的とした**濫用**であるとして、**新株発行の差止**または**無効確認**を求めて提訴(または仮処分申立)。

- 当時の商法では、第三者割当増資自体は取締役会の権限で可能(有利発行でない限り株主総会不要)だったが、**発行目的**・**価額**の公正性が厳しく問われた。


### 判旨(要旨)

東京高裁は、次のように判示し、**新株発行の差止**(または無効)を認め、第三者割当増資による買収を**不適法**とした(原告勝訴方向)。


> 「取締役は、会社の機関として、**会社の利益**のために行動すべきものであり、**自己または第三者の利益**を図るために新株を発行することは許されない。  

> 第三者割当増資が、**資金調達**や**事業拡大**等の**会社にとっての正当な必要性**に基づくものでなく、主として**特定の第三者に支配権を移転させる**ことを目的とし、既存株主の持分を不当に希薄化させるものであるときは、**取締役の忠実義務**(商法254条の2)に違反し、**株主平等の原則**を害するものとして**違法**である。  

> 本件増資は、**会社の事業目的に照らして必要性が認められず**、**発行価額**も公正とはいえず、**支配権争いの手段**として利用されたものであり、**新株発行は無効**(または差止相当)である。」


- **主要目的ルール**(主要目的が会社利益でない場合の違法性)の萌芽を示した判例の一つ。

- 第三者割当増資による**敵対的買収**や**支配権移転**が、**取締役の善管注意義務・忠実義務**に反する場合、**不公正発行**として無効・差止可能。

- 発行価額が**特に有利**でない場合でも、**目的の不当性**だけで違法となりうることを明確にした。


### 意義

- 当時(昭和40年代)は、第三者割当増資を**買収防衛**や**支配権確保**の手段として用いる事例が増え始めた時期で、この判決は**濫用的な第三者割当**に対する司法的歯止めとして画期的。

- 以後、**買収防衛策としての第三者割当増資**(いわゆる「白馬の騎士」への割当や**毒薬条項**的前段階)の有効性判断で、**「主要目的が会社利益か否か」**という基準(主要目的ルール)が発展。

- 現在の会社法下でも、**新株発行の濫用禁止**(会社法210条の趣旨)・**取締役の忠実義務**(355条)・**有利発行規制**(199条)と連動し、**敵対的買収防衛**や**TOB対抗策**としての第三者割当増資の限界を示す基本判例。

- 会社法判例百選では、直接収録されない場合もあるが、**第三者割当増資の不正発行**・**買収関連増資**の分野で頻繁に引用・参照され、**宮入バルブ事件**(東京地決平成元年)や**ニッポン放送事件**(平成17年)等の後発判例の基礎となっている。

- 現代のM&A実務では、**資金調達の必要性**・**発行価額の公正性**・**株主利益との適合性**を厳格に検討し、**第三者評価**(フィアネス・オピニオン)を取得する慣行が確立した背景にも寄与。


この判決は、第三者割当増資が**単なる資金調達**ではなく**支配権変動の強力なツール**となりうることを示し、**会社支配の私的移転**に対する司法的コントロールの重要性を確立した古典的判例です。現在も、買収防衛・TOB対抗増資の適法性判断の出発点として重視されています。


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最高裁判所ではなく**東京高等裁判所** **平成16年8月4日**決定(判例時報1868号など)は、**第三者割当増資**が**著しく不公正な方法**により行われる場合(当時の商法280条ノ13、現在会社法210条2号)の判断基準を示した重要な判例です。


この決定は、『**会社法判例百選**』(有斐閣、第4版では増資・新株発行の不公正発行関連の項目、または買収防衛・第三者割当増資分野で関連判例として言及・収録されることが多く、判批:商事法務・会社法分野の解説で頻繁に引用)にも関連する形で参照される代表例で、**主要目的ルール**の適用を明確にした判例の一つとして位置づけられています。


### 事案の概要

- 対象会社:非上場または中小規模の会社(詳細は判例上特定社名を伏せられることが多いが、支配権争いが発生した会社)。

- 争点の経緯:会社の**経営支配権**をめぐる対立が生じ、現経営陣(取締役会)が、**敵対的買収者**または**支配権を脅かす株主**の持株比率を低下させる目的で、**第三者割当増資**(特定の第三者への新株発行)を決議。

- この増資により、第三者(白馬の騎士的立場または経営陣寄りの者)が大量の株式を取得し、現経営陣の支配を維持・強化。

- 反対株主(少数株主または旧勢力側)は、この第三者割当増資が**資金調達等の会社利益のためではなく、主として現経営陣の支配権維持を目的**としたものであり、**既存株主の持分を著しく希薄化**させる**不公正な方法**による発行であるとして、**新株発行の差止**(仮処分)を申し立て。

- 当時の商法下では、第三者割当増資は取締役会決議で可能だったが(有利発行でない限り株主総会不要)、**発行方法の公正性**が厳しく審査された。


### 判旨(要旨)

東京高裁は、次のように判示し、**新株発行の差止**を認める方向で判断(原告・反対株主側に有利な決定)。


> 「新株の発行が**著しく不公正な方法**により行われる場合(商法280条ノ13)とは、**取締役が会社の利益ではなく、自己または特定の第三者の利益を図る**ために発行を行う場合をいう。  

> 特に、**会社の支配権に争いが生じている局面**において、現経営陣が**自らの支配権を維持・確保することを主要な目的**として第三者割当増資を行うときは、**株主平等の原則**を害し、**会社の機関としての取締役の職務の範囲を逸脱**するものであり、**著しく不公正な方法**に該当する。  

> 本件増資は、**資金調達の必要性**が十分に認められず、**発行目的**が支配権維持に優越しており、**発行価額**も公正性を欠くなど、**不公正発行**に当たるため、**差止**を認めるのが相当である。」


- **主要目的ルール**(新株発行の**主要な目的**が会社全体の利益か、取締役個人の支配権維持か)を明確に適用。

- 支配権争い局面での第三者割当増資は、**原則として不公正**(差止相当)と推定される方向性を示した。

- 発行の**必要性**(資金使途の合理性)・**価額の公正性**・**目的の正当性**を総合考慮。


### 意義

- **著しく不公正な方法**(会社法210条2号)の典型例として、**支配権維持を主要目的**とした第三者割当増資を**不公正発行**とする基準を確立した古典的判例。

- 以後、**買収防衛策**としての第三者割当増資(白馬の騎士への割当など)の有効性判断で、**主要目的ルール**が標準的な審査枠組みとなった。

- ただし、後発判例(例:ニッポン放送事件最高裁平成18年決定など)では、**株主全体の利益**に資する特段の事情(買収提案の有害性、買収防衛の必要性)がある場合に**例外的に正当化**される余地を認める発展が見られる。

- 会社法判例百選では、直接収録される場合や関連判例として頻出で、**新株発行差止**の要件・不公正発行の判断基準を学ぶ上で基礎的な位置づけ。

- 現代の実務では、こうした増資を行う際、**第三者評価**(公正性意見書)の取得、**株主総会決議**の活用、**情報開示**の徹底により不公正性を否定する対応が標準化された背景にも寄与。


この決定は、第三者割当増資が**支配権移転・維持の手段**として濫用されるリスクに対する司法的コントロールを強化し、**取締役の忠実義務**(当時商法254条の2、現在会社法355条)と**株主平等原則**の観点から、買収防衛・敵対的買収局面での増資適法性の判断基準を確立した重要な先例です。現在も、会社法210条に基づく差止請求の典型例として参照され続けています。


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東京高等裁判所決定 **平成17年3月23日**(判例時報1899号56頁ほか)は、**第三者割当による新株予約権発行**の**差止**(仮処分)に関する画期的な判例で、いわゆる**ニッポン放送事件**(ライブドアによる敵対的買収防衛策として新株予約権をフジ・メディア・ホールディングス系企業に発行した事案)の保全抗告審決定です。


この決定は、『**会社法判例百選**』(有斐閣、第4版では買収防衛・新株予約権・第三者割当関連の項目、または組織再編・M&A分野で収録・言及、判批:多くの場合、買収防衛策の正当性判断として取り上げられる)にも関連判例として位置づけられ、**敵対的買収防衛策**としての**新株予約権無償割当**(第三者割当)の有効性・不公正発行該当性をめぐる**基本判例**となっています。


### 事案の概要(ニッポン放送事件)

- 対象会社:ニッポン放送(当時上場会社、現フジ・メディア・ホールディングス傘下)。

- 買収者側:ライブドア(堀江貴文代表、当時筆頭株主に躍進)。

- 経緯:ライブドアが市場買付け等によりニッポン放送株を大量取得(議決権ベースで約20%超)、**敵対的買収**を試みた。

- ニッポン放送側(現経営陣)は、これに対抗するため、**第三者割当による新株予約権**(無償割当)を**フジテレビジョン**(フジ・サンケイグループ中核企業)に対し発行することを取締役会で決議。

- 新株予約権の内容:行使により大量の新株を取得可能で、すべて行使されればライブドアの持株比率が大幅希薄化(約17%→数%程度に低下)、一方フジ側が約59%超の支配権を獲得。

- ライブドア側(株主)が、この新株予約権発行が**著しく不公正な方法**(商法280条ノ10、現在会社法247条2号)によるもので、**株主不利益**を生じさせるとして、**新株予約権発行の差止仮処分**を申し立て。

- 原審(東京地裁):差止を認める決定 → ニッポン放送側が保全抗告。


争点:支配権争い局面での**第三者割当新株予約権発行**(特に無償・有利発行に近いもの)が、**株主構成変更を主要目的**とする**不公正発行**に該当するか? 差止の要件(不利益のおそれ、著しく不公正な方法)は満たすか?


### 判旨(要旨)

東京高裁第16民事部は、次のように判示し、**ニッポン放送側の保全抗告を棄却**(原審の差止認容を維持)。


> 「株主構成の変更自体を主要な目的としてなされた新株又は新株予約権の発行は、**原則として不公正な発行**(商法280条ノ10、現在会社法210条2号・247条2号)に該当する。  

> 経営権争奪の局面における第三者割当による新株又は新株予約権の発行は、**実質的な利益相反状況**下における発行であるといえるから、これを合理化するに足りる**特段の事情**のない限り、現取締役らの**経営権維持を目的**とするものであり、**株主構成の変更自体を主要な目的**とする不公正発行に該当するものと**推認**できる。  

> 本件新株予約権発行は、ライブドアによる敵対的買収に対抗するための防衛策であるが、**発行の主要目的**が**株主構成の変更**(支配権維持)にあること、**発行規模**が極めて大規模で既存株主の持分を著しく希薄化させること、**無償割当**に近い有利条件であること等から、**著しく不公正な方法**に該当し、**株主に不利益を受けるおそれ**があるため、**差止**を認めるのが相当である。」


- **主要目的ルール**を新株予約権発行にも適用。

- 経営争奪局面での第三者割当は、**原則不公正**(推認)とされ、**特段の事情**(企業価値向上、買収提案の有害性等)で合理化されない限り差止相当。

- 新株予約権の**無償割当**(または極めて有利な条件)が、**株主平等原則**・**取締役忠実義務**(商法254条の2、現在会社法355条)を害する。


### 意義

- 日本で初めて、**敵対的買収防衛策**としての**新株予約権大量第三者割当**(いわゆる「毒薬条項」の原型)が**不公正発行**に該当し、**差止**が可能であることを高裁が認めた画期的な決定。

- 以後、**買収防衛策**の正当性判断基準として**主要目的ルール**+**特段の事情**(合理性・必要性・比例性)が標準化。

- ただし、この決定後、最高裁はニッポン放送事件の本案で和解に至ったため、最高裁判断はなく、後発の**ブルドックソース事件**(最決平成19年)等で**買収防衛の正当性**(株主全体の利益に資する場合の例外)が発展。

- 会社法判例百選では、**新株予約権差止**・**買収防衛策の濫用**の分野で基本判例として収録・参照され続け、**第三者割当新株予約権**の行使による支配権変動を防ぐための司法審査の重要性を示した。

- 現代の実務では、**事前警告型防衛策**(事前型新株予約権無償割当)や**事後警告型**の設計で、**株主総会決議**の活用、**独立委員会**の設置、**第三者評価**の取得により不公正性を否定する対応が標準化された背景に大きく寄与。


この決定は、敵対的買収時代の本格化(2005年頃)を象徴する判例で、**取締役の防衛裁量**と**株主利益**のバランス、**不公正発行の推認**という枠組みを確立し、現在も買収防衛・M&A防衛策の適法性判断の出発点として極めて重要です。


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最高裁判所第二小法廷決定 **平成19年8月7日**(民集61巻5号2215頁)は、**差別的行使条件付新株予約権の無償割当て**(いわゆるポイズン・ピル型買収防衛策)の有効性に関する日本初の最高裁判例で、**ブルドックソース事件**として知られるものです。


この決定は、『**会社法判例百選**』(有斐閣、第4版では事件98として収録、判批:伊藤靖史)にも取り上げられており、**敵対的買収防衛策**の適法性・株主平等原則との関係をめぐる**基礎的・画期的な判例**となっています。現在も買収防衛策の実務・学説で最も頻繁に引用される基本判例です。


### 事案の概要(ブルドックソース事件)

- 対象会社:ブルドックソース株式会社(当時東証二部上場)。

- 買収者:米投資ファンド・スティール・パートナーズ(関連会社経由でTOB実施、買付価格1株1584円、プレミアム付き)。

- 経緯:スティールが全株式取得目的の**敵対的TOB**を公告(2007年5月18日)。ブルドック側はこれを**企業価値毀損**と判断し、**差別的行使条件付新株予約権**を**全株主**に対し**無償割当て**(1株につき新株予約権3個)することを決定。

  - 新株予約権の内容:行使価額1円(極めて有利)、1個あたり普通株式1株交付可能。

  - **差別的行使条件**:スティール側(例外事由該当者)には行使制限または会社による強制取得(現金対価)とし、持株比率を大幅希薄化(約10%→ほぼ0%へ)。

  - 他の株主には無制限行使可能で、持株比率維持・増加。

- この防衛策は**株主総会特別決議**(賛成率83%超)で承認。

- スティール側が**新株予約権無償割当ての差止**を仮処分で申し立て(株主平等原則違反・不公正発行該当主張)。

- 原審(東京地裁・高裁):差止却下 → スティールが最高裁に許可抗告。


争点:差別的行使条件付新株予約権無償割当てが、**株主平等原則**(会社法109条1項)に反するか? **著しく不公正な方法**(会社法247条2号類推適用)による不公正発行に該当するか?


### 判旨(要旨)

最高裁第二小法廷は、次のように判示し、抗告を棄却(ブルドック側勝訴、差止却下を維持)。


> 「会社法109条1項に定める**株主平等の原則**の趣旨は、株主に対して新株予約権の無償割当てをする場合にも及ぶ。  

> しかし、**特定の株主による経営支配権の取得**に伴い、**株式会社の企業価値がき損され、株主の共同の利益が害される**ことになるような場合に、その防止のために上記特定の株主を差別的に取り扱うことは、**衡平の理念に反し、相当を欠くものでない限り**、株主平等の原則の趣旨に反しない。  

> また、**特定の株主による株式の取得**が上記のような場合に該当するか否かについては、**株主総会における株主自身の判断**の正当性を失わせるような**重大な瑕疵**が存在しない限り、当該判断が尊重されるべきである。  

> 本件新株予約権無償割当ては、株主総会特別決議に基づき、**買収提案が企業価値・株主共同の利益を害するおそれ**があるとの合理的な判断の下に行われたものであり、**株主平等の原則の趣旨に反せず**、**不公正発行**にも当たらない。」


- **株主平等原則**の適用を認めつつ、**買収防衛の必要性・相当性**があれば差別的取扱いが許容される。

- **株主総会決議**の尊重(株主意思の原則)が強く、**瑕疵がない限り**司法は介入を控える。

- 防衛策の有効性判断基準として、**企業価値・株主共同の利益の毀損のおそれ**(必要性)と**衡平・相当性**(比例性)を示した。


### 意義

- 日本で初めて**ポイズン・ピル**(新株予約権無償割当型)を**最高裁が有効**と認めた判例。

- それまでの**主要目的ルール**(新株発行の主要目的が会社利益でない場合の不公正)を買収防衛局面で修正し、**株主総会の判断尊重**を軸に**必要性・相当性**の審査枠組みを確立。

- 以後、**事前型買収防衛策**(平時導入・発動時株主総会承認)の設計が主流化(信託型・事前警告型など)。

- ただし、**取締役会単独**の発動は慎重に扱われ、**独立委員会**の設置・**第三者評価**の取得が実務標準に。

- 会社法判例百選で現在も買収防衛・株主平等原則の分野で基本判例として収録され、**ブルドックソース判決**として敵対的買収対応のバイブル的存在。

- 経済産業省の「買収防衛策に関する指針」(2005年)とも連動し、**株主意思の尊重**・**企業価値向上**を重視する現代的買収防衛の枠組みを形成。


この決定以降、日本企業の買収防衛策は**株主総会決議ベース**が原則となり、**敵対的買収**に対する司法的ハードルが明確化されました。現在も、TOB対抗策やアクティビスト対応で頻繁に参照される古典的判例です。


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最高裁判所第一小法廷判決 **平成5年12月16日**(民集47巻10号5423頁)は、**新株発行差止仮処分命令**に違反して行われた新株発行の**効力**(無効原因該当性)に関する重要な判例です。


この判決は、『**会社法判例百選**』(有斐閣、第4版では事件99として収録、判批:多くの場合、新株発行の無効・差止関連の項目で取り上げられる)にも掲載されており、**新株発行無効の訴え**(当時の商法280条ノ15、現在会社法828条1項2号)の無効原因として、**仮処分違反**を認めた**画期的な判例**です。現在も、新株発行差止の実効性確保の観点から、基本判例として参照されています。


### 事案の概要

- 対象会社:非公開会社(非上場中小企業)。

- 争点の経緯:会社の**経営方針・支配権**をめぐる対立(X派株主 vs A代表取締役派)が生じ、A派が取締役会決議で**第三者割当増資**(額面価額でA派株主へ新株発行)を決定。

- X派株主(原告)は、**新株発行差止請求訴訟**を提起するとともに、**新株発行差止めの仮処分**を申請・取得(仮処分命令発令)。

- しかし、会社(Y社)はこの**仮処分命令に違反**して新株を発行・払込完了。

- X派株主は、係属中の差止請求訴訟の訴えを**新株発行無効の訴え**に変更して請求(ただし、無効の訴えの出訴期間(当時商法280条ノ15、現在会社法839条1項:発行日から1年)が経過後)。

- 原審(大阪高裁):無効を認める方向 → 会社側上告。


主な争点:

- 仮処分命令違反した新株発行は**無効原因**となるか?

- 訴え変更後の無効の訴えは、出訴期間経過により**却下**されるか?


### 判旨(要旨)

最高裁第一小法廷は、次のように判示し、上告を棄却(原告・X派株主勝訴、無効認容を維持)。


> 「新株発行差止めの仮処分命令に違反して新株発行がされたことは、**新株発行無効の訴えの無効原因**となる。  

> 仮処分命令に違反したことが新株発行の効力に影響がないとすれば、**差止請求権**を株主の権利として認め、仮処分命令を得る機会を株主に与えることによって差止請求権の実効性を担保しようとした法の趣旨が没却されてしまうからである。  

> また、新株発行差止請求の訴えが、新株発行を阻止する目的の下に仮処分命令を得た上で提起されたものであり、仮処分命令違反を無効原因とする変更後の新株発行無効の訴えは、**出訴期間の遵守に欠けるところがない**。」


- **仮処分違反**自体が**独立の無効原因**(瑕疵の重大性)となり、新株発行は**無効**。

- 差止請求権の実効性確保のため、**仮処分命令の遵守義務**を強く保護。

- 訴え変更の場合、**差止請求訴え提起時**に遡って出訴期間を起算(信義則的考慮で期間徒過を否定)。


(補足意見・反対意見あり:一部裁判官は、仮処分違反を無効原因とする点に慎重論を呈したが、多数意見が採用)


### 意義

- **新株発行差止仮処分**の実効性を大幅に強化した判例。

- それまでは、仮処分違反は**執行力の問題**(過料等)にとどまり、新株発行の**効力自体**には影響しないとする見解が有力だったが、本判決で**違反=無効原因**とする明確なルールを確立。

- 以後、会社が仮処分を無視して発行した場合、**新株発行無効の訴え**(会社法828条1項2号)で争うことが可能に。

- 支配権争い・第三者割当増資の濫用防止に寄与し、**株主の事前救済**(差止仮処分)の重要性を高めた。

- 会社法判例百選で現在も**新株発行無効**・**仮処分の実効性**の分野で基本判例として収録され、**募集株式発行の無効原因**の典型例(仮処分違反、通知・公告懈怠等)と並ぶ位置づけ。

- 現代の実務では、仮処分命令取得後、**執行妨害防止**のための追加保全措置(執行官への通知等)や、違反時の**無効訴訟**戦略が標準化された背景に大きく寄与。


この判決は、仮処分命令の**威信**を守り、株主保護の実効性を確保する上で、会社法・商法分野の古典的・基礎的判例です。現在も、買収防衛・株主間紛争での新株発行差止事案で頻繁に引用されます。


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最高裁判所第一小法廷判決 **平成6年7月14日**(民集48巻5号771頁、集民172号771頁)は、**著しく不公正な方法**による新株発行(旧商法280条ノ10、現在会社法210条2号・247条2号類推適用)が**新株発行無効事由**に該当しないとする重要な判例です。


この判決は、『**会社法判例百選**』(有斐閣、第4版では事件99または新株発行無効関連の項目として収録・言及されることが多く、判批:新株発行の効力・取引安全の観点から頻繁に引用)にも関連する形で位置づけられ、**新株発行の無効原因**を厳格に限定した古典的判例です。**不公正発行**(著しく不公正な方法)と**無効事由**の関係を明確にし、**取引安全**を重視する立場を確立しました。


### 事案の概要

- 対象会社:非上場の中小規模株式会社(閉鎖的性格が強いが、判決では規模・閉鎖性は影響しないと明言)。

- 経緯:会社の**経営支配権**をめぐる争い(現経営陣 vs 反対株主)が生じ、取締役会が**第三者割当増資**(特定の第三者または現経営陣寄りの者に新株発行)を決議・実行。

- 新株発行の結果:発行された新株が**現取締役**(またはその関係者)により引き受けられ、**持株比率**が変動し支配関係に影響。

- 反対株主(原告)は、この新株発行が**著しく不公正な方法**(支配権維持を主要目的とした濫用)によるものであり、**新株発行無効**を主張して**新株発行無効の訴え**(旧商法280条ノ15、現在会社法828条1項2号)を提起。

- 原審(高裁):不公正発行を認め、無効とする方向 → 会社側上告。


争点:**著しく不公正な方法**による新株発行(不公正発行)が、**新株発行の無効原因**(無効事由)に該当するか? 発行された新株の効力を画一的に有効とするか?


### 判旨(要旨)

最高裁第一小法廷は、次のように判示し、上告を認容(原判決破棄、会社側勝訴、無効を否定)。


> 「株式会社を代表する権限のある取締役によって行われた新株発行は、それが**著しく不公正な方法**によってされた場合であっても、**新株の発行**が会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があることから、その効力を**画一的に判断**する必要がある。  

> したがって、発行された新株がその会社の**取締役の地位にある者**によって引き受けられ、その者が現に保有していること、あるいは新株を発行した会社が**小規模で閉鎖的な会社**であることなどのような事情の有無によってこれを個々の事案ごとに判断することは相当でない。  

> 本件新株発行は、たとえ**著しく不公正な方法**によるものであったとしても、**新株発行の無効原因**には該当せず、**有効**である。」


- **不公正発行**(旧商法280条ノ10:差止事由)と**無効事由**(同280条ノ15)を区別。

- 不公正発行は**発行前**の差止(仮処分・本案差止請求)で救済されるが、**発行後**は取引安全・第三者保護のため**無効原因とはならない**。

- 取締役による発行の**外観**が整っていれば、**内部的瑕疵**(不公正目的等)だけでは無効にしない(画一的有効)。

- 会社の規模・閉鎖性・引受人が取締役か否かは、無効判断に影響しない。


### 意義

- **不公正発行**と**無効事由**の峻別を明確にし、**新株発行の効力**を**原則有効**とする立場を最高裁が確立(取引安全優先)。

- それまでは、下級審で不公正発行=無効とする傾向があったが、本判決で**発行後の無効主張**を大幅に制限。

- 以後、**著しく不公正な方法**による新株発行に対する救済は、**発行前**の**差止請求**(会社法210条)または**仮処分**に集中(発行後は**損害賠償請求**(取締役の責任、会社法423条)等に限定)。

- 会社法判例百選で**新株発行無効**の分野で基本判例として収録・参照され続け、**仮処分違反の場合**(最判平成5年12月16日)との対比で、無効原因の例外(執行妨害)を考える枠組みを提供。

- 現代の実務では、**不公正発行**の疑いがある場合、**早期の差止仮処分**取得が極めて重要となり、**第三者評価**・**株主総会決議**の活用で不公正性を否定する対応が標準化された背景に寄与。


この判決は、**新株発行の安定性**を重視しつつ、**株主保護**を実効的に行うための**予防的救済**(差止)の重要性を示した古典的判例です。現在も、買収防衛・株主間紛争での新株発行事案で、**無効主張**の限界を論じる際に不可欠な先例となっています。





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