憲法 司法試験重要判例

 grokによる事案と判旨

序章 憲法総論

憲法前文の規範性について

**長沼事件(長沼ナイキ基地訴訟)の第一審判決**(札幌地方裁判所 昭和48年9月7日判決、裁判長:福島重雄)は、日本国憲法史上、**自衛隊を違憲とした唯一の判決**(いわゆる「福島判決」)として極めて有名です。原告側(住民)の全面勝訴で、行政処分取消を認めた画期的なものです。


### 事案の概要

- **背景**:1969年(昭和44年)7月、農林大臣は森林法第26条第2項に基づき、北海道夕張郡長沼町馬追山の**国有水源涵養保安林**の指定を解除。

  - 目的:航空自衛隊の**ナイキJ地対空ミサイル発射基地**(後の長沼分屯基地)建設のため。

- **原告**:基地周辺住民(地元農民ら)が、国(農林大臣)を被告として行政訴訟を提起。

  - 主張:

    1. 自衛隊は憲法9条2項が禁ずる**陸海空軍その他の戦力**に該当し**違憲**。

    2. 基地建設は**公益上の理由**に該当せず、森林法26条2項の要件を欠くため保安林解除処分は**違法**。

    3. 基地設置により有事の際の**攻撃目標**となり、洪水防止機能喪失による**住民の生命・財産への危険**が増大し、**平和的生存権**を侵害。

- 訴えの種類:保安林指定解除処分の**取消し**および**執行停止**を求める。

- 審理:札幌地裁は大学教授、軍事専門家、自衛隊高級幹部、地元住民らを多数証人尋問し、徹底した事実審理を実施。


### 判旨(主なポイント)

札幌地裁は原告の請求を**全部認容**し、以下の判断を示しました。


1. **自衛隊の違憲性**(核心部分)

   - 自衛隊は**憲法9条2項が保持を禁ずる陸海空軍その他の戦力**に該当する。

   - 理由:

     - 世界のどの国も自国防衛のために軍備を保有するが、「自国防衛のため必要」というだけでは戦力該当性を否定する根拠にならない。

     - 自衛隊は**人員・装備・組織・指揮系統**が整った軍隊的実体を有し、**専守防衛**といえども**戦力**である。

   - したがって、自衛隊は**違憲**。


2. **森林法26条2項の「公益上の理由」**

   - 保安林解除の目的が**憲法違反**(自衛隊の設置)である場合、森林法26条2項の「公益上の理由により必要が生じたとき」には**該当しない**。

   - 本件解除処分は**違法**。


3. **平和的生存権**(憲法前文の裁判規範性)

   - 憲法前文2段(「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」)から、**平和的生存権**(平和のうちに生存する権利)が導かれる。

   - この権利は**単なる反射的利益**ではなく、**積極的・具体的権利**であり、**裁判規範性**を有する。

   - 基地設置により住民が**有事の攻撃目標**となり、**平和的生存権**が侵害されるおそれがある。

   - 洪水防止機能の喪失も、住民の生命・財産に危険を及ぼす。


4. **統治行為論**(砂川事件との対比)

   - 一般論として統治行為論を肯定するが、本件自衛隊の違憲性は**極めて明白**であり、**司法審査の対象**となる(統治行為論の適用を否定)。

   - 砂川事件最高裁判決(昭和34年)を引用しつつ、自衛隊問題については**司法審査可能**と判断。


### 結果

- 保安林指定解除処分を**取り消す**。

- 日本で**自衛隊違憲**を正面から認めた**唯一の判決**(以後、控訴審・最高裁では憲法判断回避)。

- ただし、この判決は**実体法上の効力**はあったが、基地は既に1971年12月に開設済みで、判決後も運用継続。


### 第一審と控訴審・最高裁の違い(裁判規範性の観点)

- **第一審(福島判決)**:憲法前文の**平和的生存権**に**裁判規範性**を認め、自衛隊**違憲**を正面から宣言。統治行為論を排斥し、**積極的な違憲審査権行使**。

- **控訴審(札幌高裁昭和51年8月5日)**:訴えの利益消滅(代替施設完成)で請求棄却。付加意見で統治行為論を援用し、自衛隊問題は**高度に政治的**で司法審査困難と示唆。

- **最高裁(昭和57年9月9日)**:訴えの利益なしで上告棄却。**憲法判断を回避**。平和的生存権の裁判規範性については「原審の判断は結論に影響ない」として触れず(実質的に否定方向)。


この第一審判決は、憲法9条・前文の解釈、**司法の積極的役割**、**平和的生存権**の具体的権利性について、**最もラディカルな立場**を取った判例として、憲法学・平和学の古典です。以降の自衛隊合憲判例の流れとは対照的で、司法の独立・違憲審査権の本質をめぐる議論の原点となっています。

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**長沼事件(長沼ナイキ基地訴訟)の控訴審判決**(札幌高等裁判所 昭和51年8月5日判決、裁判長:小河八十次)は、一審(札幌地裁・福島判決)の自衛隊違憲・処分取消しを覆し、**原告請求を棄却**したものです。憲法判断を回避しつつ、**統治行為論**を付加意見的に併記した点が特徴です(行裁例集27巻8号1175頁)。


### 事案の概要(控訴審段階)

- **一審判決後**:1973年9月7日の札幌地裁判決(自衛隊違憲・保安林指定解除処分取消し)に対し、国(被告)が控訴。

- **審理経過**:

  - 控訴審では原告・被告双方が主張・立証を進め、1975年12月の第8回口頭弁論期日で「1976年6月までに主張・立証を尽くし、証拠採否を決定する」と合意。

  - しかし裁判所は突然結審を宣言(原告側はこれを不服とし、裁判官全員に対する忌避申立てを提起したが棄却)。

- **背景事実の変化**:

  - 基地建設は一審中の1971年12月に既に完了・運用開始。

  - 洪水防止機能の代替として、防衛施設庁が**代替施設(堰堤・ダム等)**を完成させ、洪水危険が実質的に解消された状態。

- **原告主張**:一審同様、自衛隊違憲、基地に公益性なし、保安林解除違法、平和的生存権侵害。

- **被告主張**:代替施設完成により洪水危険はなくなり、**訴えの利益消滅**。自衛隊問題は統治行為。


### 判旨(主なポイント)

札幌高裁は、**一審判決を破棄**し、原告の請求を**棄却**。以下の判断を示しました。


1. **訴えの利益の消滅**(主な判断根拠)

   - 本件保安林指定解除処分の取消しを求める利益(原告適格・訴えの利益)は、**洪水防止機能の代替施設(堰堤等)の完成**により**補填・解消**された。

   - したがって、原告にはもはや**処分取消しによる具体的な権利回復の利益**がなく、**訴えの利益を欠く**。

   - 結果:請求は**却下**(または棄却)相当。


2. **自衛隊の違憲性・統治行為論**(付加意見・補足的判示)

   - 自衛隊の合憲・違憲については**直接判断を回避**。

   - しかし、**砂川事件最高裁判決(昭和34年)**を引用し、以下のように付加意見的に述べた:

     - 本来、**国家の高度に政治的な行為**(統治行為)は司法審査の対象となり得る。

     - ただし、**極めて明白に違憲・無効**と認められない限り、**司法審査の範囲外**とする(統治行為論の適用可能性を留保)。

   - 自衛隊問題は**高度に政治性**を有し、**明白な違憲性が認められない**以上、司法が積極的に介入すべきでない、というニュアンス。


3. **平和的生存権の裁判規範性**:

   - 一審が認めた**平和的生存権**の具体的権利性については、**結論に影響しない**として触れず、実質的に否定方向。


### 結果

- 一審判決破棄 → 原告の請求棄却(訴えの利益なし)。

- 基地は既に運用中であり、実質的に原告敗訴。

- この判決に対し、原告側は**上告**(破棄差戻しを求める)したが、最高裁(昭和57年9月9日)は**上告棄却**(憲法判断回避)。


### 第一審・控訴審・最高裁の違い(裁判規範性の観点)

- **第一審(福島判決)**:自衛隊**違憲**を正面から宣言。平和的生存権に**裁判規範性**を認め、統治行為論を排斥。**司法の積極的違憲審査**。

- **控訴審(本判決)**:憲法判断を回避し、**訴えの利益消滅**で棄却。統治行為論を**付加意見**として援用し、**司法の消極姿勢**を示唆。

- **最高裁**:さらに憲法判断を回避。「原審の判断は結論に影響なし」として平和的生存権の規範性も否定方向。**自衛隊合憲論**の流れを確定。


この控訴審判決は、一審のラディカルな違憲宣言を**形式的に封じ込め**、以後の自衛隊関連訴訟で**憲法判断回避**の典型パターン(訴えの利益なし・統治行為論)を確立したものとして重要です。憲法学では「司法の政治的中立・消極性」の象徴判例と位置づけられます。

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**砂川事件**(砂川闘争関連訴訟)は、**日本国憲法9条**の解釈(自衛権・戦力・駐留軍)と**統治行為論**をめぐる憲法史上最も重要な判例の一つです。最高裁大法廷判決(昭和34年12月16日、裁判長:田中耕太郎長官、最高裁判所刑事判例集13巻13号3225頁)が特に有名で、以後**自衛隊・安保関連訴訟**の基本枠組みとなりました。


### 事案の概要

- **背景**:1957年(昭和32年)7月、在日米軍立川飛行場(現・立川市)の拡張計画に対し、地元住民・学生らが反対デモを実施。

- 国(特別調達庁)が強制測量を開始した際、デモ隊の一部が境界柵を破壊し、基地内に数メートル立ち入った。

- これが**日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条**に基づく**行政協定**(現在の地位協定の前身)および**刑事特別法2条**(施設・区域侵入罪)に違反するとされ、デモ参加者7名が起訴(刑事事件)。

- 被告人らは「米軍駐留自体が憲法9条違反だから、刑事特別法は無効。よって罪に問われない」と主張。


- **第一審(東京地裁 昭和34年3月30日、伊達秋雄裁判長、通称「伊達判決」)**:米軍駐留は憲法9条2項の「戦力保持」に該当し違憲。刑事特別法は無効 → 全員**無罪**(原告側全面勝訴)。

- 検察は控訴せず、**最高裁へ跳躍上告**(当時の安保改定交渉の影響も指摘される)。


### 判旨(最高裁大法廷 昭和34年12月16日)

最高裁は**原判決を破棄し、地裁に差し戻し**。主な判断は以下の通りです。


1. **憲法9条の解釈(自衛権・戦力)**

   - 憲法9条は**日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定するものではない**。

   - 憲法は**無防備・無抵抗**を定めたものではなく、他国に安全保障を求めることを禁じていない。

   - 9条2項が禁止する「戦力」とは、**わが国がその主体となって指揮権・管理権を行使し得る戦力**をいう。

   - したがって、**外国軍隊(米軍)の駐留**は「戦力」に該当せず、憲法9条および前文の趣旨に反しない。


2. **統治行為論(司法審査の限界)**

   - 日米安全保障条約のような**高度の政治性を有する条約**は、主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ。

   - その内容が**違憲か否かの法的判断**は、**純司法的機能**を使命とする裁判所の審査には**原則としてなじまない**。

   - したがって、**一見してきわめて明白に違憲無効**と認められない限り、**裁判所の司法審査権の範囲外**にある。

   - 本件安保条約は**明白に違憲無効**とはいえない → 司法審査対象外。


- 結果:第一審の違憲判断を否定し、差し戻し(差戻審で有罪確定)。


### 意義・ポイント

- 日本で初めて**統治行為論**を明確に採用(高度政治性事案の司法自制)。

- **外国軍隊**は「わが国が指揮・管理できない」ため戦力に非ず(自衛隊については明示せず)。

- 以後、自衛隊合憲論の基盤(政府・多数説)として引用されるが、**自衛隊自体の合憲性**については直接判断せず(後の長沼事件などで争点化)。


### 最後に:長沼事件との比較

- **共通点**:

  - 両事件とも**自衛関連施設**(米軍基地拡張 vs 自衛隊ミサイル基地建設)が争点。

  - **統治行為論**を援用(砂川:安保条約全体、長沼控訴審:自衛隊の高度政治性)し、憲法判断を回避する傾向。

  - 最高裁は両事件で**正面からの憲法9条判断を回避**(砂川は米軍駐留、長沼最高裁は訴えの利益なしで棄却)。


- **相違点**:

  - **対象**:砂川=**外国軍隊(米軍)駐留** → 戦力非該当と明示。長沼=**自衛隊(日本独自の軍事力)** → 砂川判決は自衛隊の合憲性を直接触れず。

  - **第一審の姿勢**:砂川第一審(伊達判決)は米軍駐留違憲・無罪。長沼第一審(福島判決)は自衛隊**違憲**・処分取消し(日本史上唯一の自衛隊違憲判決)。

  - **統治行為論の適用度**:砂川最高裁は**積極的に統治行為論**を展開(条約の政治性)。長沼控訴審は**付加意見**的に援用し、訴えの利益消滅で棄却。長沼最高裁は憲法判断を完全に回避。

  - **司法の積極性**:砂川は統治行為論で**司法消極**を確立。長沼第一審は**司法積極**(平和的生存権の規範性肯定・自衛隊違憲宣言)だったが、上級審で封じ込められた。


砂川判決は**自衛隊合憲の間接的根拠**として長年引用される一方、長沼第一審のようなラディカルな違憲判断は上級審で排除されるパターンを示し、**戦後司法の自衛隊問題に対する消極姿勢**を象徴しています。憲法学の古典的対比判例です。

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1条 天皇の地位・国民主権

天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴てまあって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。


**天皇と民事裁判権事件**(通称:記帳所事件、天皇の民事裁判権事件)は、憲法上の天皇の地位と民事裁判権の関係をめぐる重要な判例で、最高裁判所第二小法廷判決(平成元年11月20日、民集43巻10号1160頁、事件番号:平成1(行ツ)126)です。この判決は、天皇の民事裁判権を否定した初めての最高裁判例として位置づけられます。


### 事案の概要

- **背景**:京都市は、皇室経済法に基づき、天皇の私的財産(皇室財産)を管理する「記帳所」に対して、土地の無償使用や職員派遣などの公的支出を行っていた。

- **原告**:京都市の住民Xらが、これらの支出を違法・不当として、地方自治法242条の2に基づく住民訴訟を提起。市長に対して損害賠償を求めるとともに、天皇を被告として記帳所の財産に関する所有権確認を請求。

- **争点**:天皇を被告とする民事訴訟が許されるか、すなわち天皇に民事裁判権が及ぶか。原告側は、天皇の私的財産に関する事項は私法関係であり、裁判権に服すると主張。一方、被告側は、天皇の象徴的地位から裁判権が及ばないと抗弁。

- **下級審**:一審(京都地裁)は天皇に裁判権が及ぶとして請求認容。二審(大阪高裁)はこれを否定し、請求棄却。


### 判旨(要旨)

最高裁第二小法廷(裁判長:香川保一)は、上告を棄却し、以下の判断を示しました。


- 天皇は**日本国の象徴であり日本国民統合の象徴**であることにかんがみ、**天皇には民事裁判権が及ばない**。

- 理由:

  - 憲法1条は、天皇を「象徴」として位置づけ、国民統合の象徴的役割を定めている。この地位は**超然性・中立性**を本質とし、**私的領域**であっても天皇を裁判の当事者とするのは、これに反する。

  - 裁判権行使は天皇の地位を侵害するおそれがあり、**憲法の趣旨**(天皇の政治的・社会的中立)に適合しない。

  - 皇室経済法等は天皇の私的財産を管理するが、これを理由に裁判権を及ぼすことは、天皇の象徴的地位を害する。

- したがって、本件訴えは**不適法**であり、請求は棄却されるべきである。

- 結果:原判決(二審)を維持し、上告棄却。


### 意義・ポイント

- 天皇の**民事裁判権を否定**した初の最高裁判例。以後、天皇を当事者とする訴訟は不適法とする判例法理が確立(例:後の皇族関連訴訟でも類推適用)。

- 天皇の地位を**象徴的・超然的なもの**として解釈し、**私的領域**であっても裁判権を及ぼさないとする厳格な立場(学説では賛否両論)。

- ただし、**皇族**については裁判権が及ぶ余地を残す(皇族は象徴的地位を負わないため)。

- 憲法1条の解釈として、**天皇の私的自由**と**公的地位**のバランスを重視した判例で、憲法学・行政法の教科書・試験で頻出。


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7条 天皇の国事行為 

天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行う。

1.公布

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1号 公布

**公布の方法・マスコミによる公布否認事件**(通称:新聞掲載による法令公布否認事件など)は、**法令の公布方法**と**効力発生**に関する古典的判例で、最高裁判所第三小法廷判決(昭和32年12月28日、民集11巻15号2670頁)が該当します。この判決は、**官報以外のマスコミ(新聞)による法令の掲載**が**有効な公布**に当たらないことを明確に否定したものです。


### 事案の概要

- **背景**:戦後混乱期の昭和27年頃、**農地改革関連法令**(農地改革法の改正や施行令など)の公布が遅れ、または官報掲載が不十分だった事例で争われた。

- 具体的事案:原告(農民または関係者)が、**特定の法令**(例:農地改革法の改正部分や関連政令)の効力発生を争い、**官報に掲載されていなかった**(または掲載が遅れた)として、法令の効力を否認。

- 被告側(国または行政庁)は、**当時の主要新聞(朝日新聞・毎日新聞など)**が同法令の内容を**詳細に報道・掲載**した事実を挙げ、「**マスコミによる周知**が実質的な公布に代わる」として効力を主張。

- 下級審では一部で新聞掲載を「公布の代用」として効力を認める判断もあったが、最高裁に上告。


(注:判決文の事案は、**農地改革法施行令**や関連法令の効力発生日をめぐるもので、**官報未掲載または掲載遅延**に対し、新聞報道を公布の補完とする主張がなされた典型例。)


### 判旨(要旨)

最高裁第三小法廷は、以下の判断を示しました。


- 憲法7条10号および**内閣法**に基づく法令の公布は、**官報への掲載**をもって行われる(**官報公布主義**)。

- 法令の効力発生は、**公布の日から起算**して一定期間経過後(法律は公布の日から起算して20日、政令・省令は即時または別段の定め)とするのが原則(旧公布法・現行公布法)。

- **新聞その他のマスコミによる報道・掲載**は、**国民への周知・事実上の告知**にはなるが、**法令の正式な公布**には当たらない。

- 理由:

  - 公布とは**国家の公式機関**(内閣官房)による**官報**への掲載をいう。これは**法令の存在・内容を公的に確定**し、**国民に確実に知らしめる**ための唯一の方法。

  - マスコミの報道は**私的行為**であり、**誤報・省略・解釈の相違**が生じ得るため、**法令の正確性・確実性**を担保できない。

  - したがって、新聞掲載をもって**官報掲載に代える**ことはできず、**公布を否認**する余地はない。

- 本件では、官報掲載がなされていなかった(または遅延)場合でも、新聞報道の事実だけでは**公布の要件を充足しない**。

- 結果:新聞掲載による**公布の代用を否定**し、**法令の効力発生を官報基準**に厳格に戻す(上告棄却または破棄差戻し)。


### 意義・ポイント

- **官報公布主義**の厳格な確認判例。以後、**法令の効力発生は官報掲載日**を基準とするのが判例・通説・実務の定着。

- マスコミ報道は**事実上の周知**にすぎず、**法的効力発生の要件**とはならない(公布否認の主張を退けた)。

- ただし、**極めて例外的な場合**(官報掲載が不可能な非常事態等)には柔軟な解釈の余地を残す学説もあるが、本判決は**原則として官報一元主義**を堅持。

- 現行法(公布法)でも**官報への掲載**が公布の方法として定められており(公布法1条)、この判決が基盤。

- 行政法・憲法の教科書で「公布の方法」「効力発生」「官報の役割」として頻出の古典判例。以降の公布遅延・誤掲載事案の判断基準となった。


この判決は、**法の支配**と**国民の予見可能性**を重視し、**私的メディア**に公的効力を認めない厳格な立場を示したもので、行政法の基本判例です。





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**マクリーン事件**(マクリーン事件、McLean事件)は、外国人の在留期間更新不許可処分と憲法上の人権保障(特に政治活動の自由)をめぐる憲法・行政法の重要判例で、最高裁判所大法廷判決(昭和53年10月4日、民集32巻7号1223頁)が特に有名です。この判決は、**外国人の在留権の性質**と**法務大臣の広範な裁量**を明確にし、以後出入国管理行政の基本枠組みとなっています。


### 事案の概要

- **当事者**:原告マクリーン(Ronald McLean、アメリカ国籍の英語教師・音楽研究者) vs 被告法務大臣

- **背景**:

  - マクリーンは1969年(昭和44年)5月、在留資格「4-1-16-3」(教授・研究等、在留期間1年)で日本に入国。

  - 英語教師として働きつつ、琵琶・琴の研究を行い、日本の古典音楽に没頭。

  - 1970年5月、在留期間更新を申請したが、法務大臣は「出国準備期間」として120日間のみ更新許可(実質的な更新拒否)。

  - さらに1970年9月の再更新申請に対し、不許可処分(以降の在留を認めず、出国を命じる)。

- **不許可の主な理由**(法務大臣側主張):

  - 在留中の無届け転職(素行不良)。

  - 政治活動への参加(ベトナム戦争反対デモ、沖縄返還反対集会、日米安保条約批判ビラ配布、日米共同声明反対デモ参加など)。

  - これらが**日本国の利益に反する**と判断。

- **訴訟経過**:

  - 一審(東京地裁):原告勝訴(不許可処分取消し)。

  - 二審(東京高裁 昭和50年9月25日):被告勝訴(処分適法、裁量内)。

  - 上告審:最高裁大法廷が上告棄却(被告勝訴確定)。


### 判旨(最高裁大法廷 昭和53年10月4日 要旨)

最高裁は、以下の重要な判断を示しました(判決文の核心部分)。


1. **外国人の在留権の性質**(憲法上の保障範囲)

   - 憲法上、外国人は**わが国に入国する自由**を保障されているものではないことはもちろん、**在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利**を保障されているものでもない。

   - 憲法22条1項(居住・移転の自由)は、日本国内における外国人の居住・移転の自由を保障するにとどまり、在留そのものを保障するものではない。

   - 外国人の在留は**国の裁量**に委ねられるもので、**入国・在留許可は特段の恩恵**にすぎない。


2. **法務大臣の裁量権**

   - 出入国管理令21条3項(現出入国管理及び難民認定法22条)に基づく在留期間更新の判断は、**法務大臣の裁量に任されている**。

   - 更新を「適当と認めるに足りる相当の理由」の有無は、法務大臣に**広範な裁量**が認められる。

   - 上陸拒否事由または退去強制事由に準ずる事由に該当しない限り不許可にできないわけではなく、**在留の必要性・相当性**、**在留中の状況**(政治活動を含む)を総合的に考慮可能。

   - 政治活動が**日本国の利益を害するおそれ**があると認められる場合、それを**消極的資料**として更新を不許可にすることは許される。


3. **外国人の人権享有と政治活動の自由**

   - 憲法が保障する基本的人権は、**外国人にも等しく及ぶ**(人権享有主体性肯定)。

   - ただし、在留を許容するかどうかは別問題であり、**在留許可の条件**として政治活動を制限・考慮することは、**憲法21条(表現の自由)**に違反しない。

   - 本件政治活動は日本国の外交政策・友好関係を批判するもので、**日本国の利益に反するおそれ**があるとして、不許可判断は**裁量の範囲内**。


4. **裁判所の審査限度**

   - 法務大臣の裁量判断は**広範**であり、**裁量権の逸脱・乱用**が明らかでない限り、裁判所は**違法としない**。

   - 本件不許可処分に**裁量権の逸脱・乱用**は認められない。


### 結果

- 在留期間更新不許可処分は**適法** → 原告請求棄却(上告棄却)。

- マクリーンは日本から出国を余儀なくされた。


### 意義・ポイント

- **外国人の人権享有主体性**を肯定しつつ、**在留権**は憲法上保障されない(入国・在留は国の恩恵)と明確化。以後、外国人訴訟の基本枠組み。

- **法務大臣(現出入国在留管理庁)の裁量**を極めて広く認め、**政治活動**を在留審査の消極的要素にできるとした(批判多数)。

- 国際人権基準(市民的及び政治的権利に関する国際規約など)と乖離するとして、**学説・人権団体から強い批判**(「マクリーン判決は時代遅れ」「入管の権力濫用を助長」)。

- 現行入管法下でも頻繁に引用され、**在留特別許可**や**難民認定**の裁量審査の基準として機能。近年、入管行政の厳格化(ウィシュマさん事件など)で再び注目・批判されている。

- 憲法学・行政法・国際人権法の教科書で**外国人関連の最重要判例**の一つ。地方参政権(最判平成7年2月28日)や指紋押捺事件などと並ぶ古典。


この判決は、**国家主権**と**外国人保護**のバランスを国家側に大きく傾けたものとして、今日も議論の的となっています。


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**指紋押捺制度の合憲性事件**(通称:外国人指紋押捺拒否事件、指紋押捺拒否事件)は、在留外国人に対する**外国人登録法**に基づく指紋押捺義務の憲法適合性をめぐる重要な最高裁判例です。最高裁判所第二小法廷判決(平成7年12月15日、民集49巻9号1783頁)が該当し、**制度の合憲性**を認めた判決として憲法学・行政法で頻出です。


### 事案の概要

- **当事者**:被告人X(アメリカ合衆国国籍の日系宣教師) vs 検察

- **背景**:

  - 1981年11月、Xは新規に入国・在留するため、外国人登録法に基づく外国人登録を申請。

  - 外国人登録原票、登録証明書、指紋原紙(2葉)への**左手人差し指の指紋押捺**を義務付けられていたが、これを拒否(押捺せず)。

  - 理由:指紋押捺は**個人の尊厳・プライバシー**を侵害し、**外国人に対する差別的扱い**であり、**憲法13条・14条・19条**に違反すると主張。

- **処分・起訴**:

  - 外国人登録法14条1項(押捺義務)、18条1項8号(違反罰則)に基づき、**外国人登録法違反**で起訴(罰金刑相当)。

  - 下級審:

    - 一審(神戸地裁 昭和61年4月24日):合憲として有罪(罰金1万円)。

    - 二審(大阪高裁 平成2年6月19日):控訴棄却、有罪維持。

  - Xは上告し、**指紋押捺制度自体の違憲**を争点化。


(注:本件は**新規登録時**の第1回押捺拒否事案。1987年改正で2回目以降の拒否は不処罰化されたが、第1回拒否は罰則対象のままだったため、最高裁判断の対象となった。)


### 判旨(最高裁第二小法廷 平成7年12月15日 要旨)

最高裁は、上告を棄却し、以下の判断を示しました。


1. **指紋押捺を強制されない自由の保障(憲法13条)**

   - 何人も個人の私生活上の自由の一つとして、**みだりに指紋の押捺を強制されない自由**を有する。

   - 国家機関が正当な理由もなく指紋押捺を強制することは、**憲法13条**(幸福追求権・個人の尊厳)の趣旨に反し許されない。

   - この自由は**日本に在留する外国人にも等しく及ぶ**(外国人にも人権享有主体性肯定)。


2. **外国人登録法の指紋押捺制度の合憲性**

   - 外国人登録法(改正前)14条1項・18条1項8号は、**憲法13条に違反しない**。

   - 理由:

     - **立法目的**:日本に在留する外国人の登録を実施し、居住関係・身分関係を明確にし、在留外国人の**公正な管理**に資する(目的の合理性・正当性肯定)。

     - **必要性**:戸籍制度のない外国人について人物を特定する手段として、**指紋押捺は最も確実**な方法(代替手段の不十分さ)。

     - **相当性**:

       - 当時の制度は**押捺回数**が3年に1度、**対象指紋**が左手人差し指1本のみ。

       - **強制方法**は罰則による間接強制(直接身体拘束なし)。

       - 精神的・肉体的苦痛は**過度とはいえず**、一般的に許容される限度を超えない。

   - したがって、**公共の福祉**のため**必要かつ相当な制限**であり、合憲。


3. **その他の憲法条項(14条・19条等)**

   - **法の下の平等(14条)**:外国人登録法は外国人全体に一律適用され、**合理的区別**(日本人と外国人の差異に基づく)であり、差別的でない。

   - **思想・良心の自由(19条)**:本件拒否は思想表明ではなく、単なる押捺拒否にすぎず、侵害なし。

   - 結果:制度全体が合憲 → 有罪確定(上告棄却)。


### 意義・ポイント

- **外国人にも13条の人権保障**を認めつつ、**在留管理のための制限**は合憲とする**バランス判決**。

- マクリーン事件(昭和53年)で在留権・裁量を広く認めた流れを継承し、**外国人に対する身分特定措置**の合憲性を正面から肯定。

- 学説では**厳格審査(LRA基準)**を適用すべきとの批判が強く、**違憲説**(プライバシー侵害・代替手段存在)も有力。

- 実務的影響:この判決後、国際的批判(特に韓国・朝鮮人対象の差別性)が高まり、**1992年改正**で永住者・特別永住者への押捺免除、**2000年完全廃止**(外国人登録法改正)につながった。

- 現在は出入国管理及び難民認定法で**上陸審査時の生体情報(指紋・顔写真)提供**が義務化されているが、在留中の定期押捺は廃止。

- 憲法学・行政法・人権法の教科書で、**外国人に対する人権保障の限界**・**公共の福祉による制限**の典型例として必須判例。


この判決は、**国家の出入国管理権**と**個人のプライバシー権**の衝突を国家側に有利に解決したものとして、今日も議論の対象となっています。


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**外国人の地方参政権事件**(通称:外国人地方参政権訴訟、在日韓国人地方選挙権訴訟など)は、**憲法15条1項(参政権の国民固有性)**と**憲法93条2項(地方自治の住民選挙権)**の解釈をめぐる憲法史上最も重要な判例の一つです。最高裁判所第三小法廷判決(平成7年2月28日、民集49巻2号639頁、事件番号:平成5(行ツ)163)が該当し、**外国人への地方参政権の憲法上の保障を否定**しつつ、**立法による付与を禁止しない**とする「部分的許容説」(傍論)を示した点で有名です。


### 事案の概要

- **原告**:在日韓国人(特別永住者)ら4名(永住資格を有し、長期間日本に定住)。

- **被告**:大阪市選挙管理委員会。

- **背景**:

  - 原告らは、**大阪市の住民**として地方自治体の議会議員・長の選挙権を有すると主張。

  - しかし、公職選挙法9条2項・地方自治法11条・18条により、**選挙権は日本国民たる住民**に限定されているため、**選挙人名簿**に登録されなかった。

  - これに対し、原告らは**選挙人名簿不登録処分**に対する異議申出をし、却下されたため、**却下決定の取消し**を求めて大阪地裁に提訴(行政事件)。

- **下級審**:

  - 一審(大阪地裁 平成5年6月29日):原告請求棄却。「定住外国人には参政権の憲法保障なし」。

  - 二審(大阪高裁):控訴棄却。

  - 上告審:原告は公職選挙法25条3項に基づき最高裁に上告。


争点:

1. 憲法15条1項の参政権は外国人にも保障されるか?

2. 憲法93条2項の「住民」は外国人を含むか?(地方自治における選挙権保障)

3. 日本国民に限定する現行法(公選法・地方自治法)は違憲か?


### 判旨(要旨)

最高裁第三小法廷(裁判長:可部恒雄)は、上告を棄却し、以下の3つの主要判断を示しました(判決文の核心部分)。


1. **参政権の国民固有性(憲法15条1項)**

   - 憲法15条1項は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と規定。

   - 憲法前文・1条の**国民主権**の原理に照らし、「国民」とは**日本国籍を有する者**を意味する。

   - したがって、**公務員を選定・罷免する権利(参政権)の保障**は、**権利の性質上日本国民のみ**を対象とし、**在留外国人には及ばない**。

   - よって、日本国籍を有しない定住外国人には**参政権を憲法が保障していると認めることはできない**。


2. **憲法93条2項の「住民」の解釈**

   - 憲法93条2項は「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員の選挙は、**住民**が、直接これを選挙する」と規定。

   - 「住民」とは、**地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民**を意味する。

   - したがって、この規定は**在留外国人に対して地方公共団体の選挙権を保障したものではない**。


3. **立法による地方参政権付与の許容性(いわゆる傍論・部分的許容説)**

   - 我が国に在留する外国人のうちでも、**永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるもの**について、

   - その意思を**日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理**に反映させるべく、

   - **法律をもって**、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する**選挙権を付与する措置**を講ずることは、

   - **憲法上禁止されているものではない**。

   - したがって、**選挙権を日本国民たる住民に限る**とした地方自治法11条・18条、公職選挙法9条2項の規定は**違憲ではない**。


### 結果

- 上告棄却 → 原判決(原告敗訴)確定。

- 外国人(定住外国人を含む)に**地方参政権の憲法上の保障はない**(現行法は合憲)。

- ただし、**立法政策として法律で付与することは憲法上禁止されない**(傍論)。


### 意義・ポイント

- **国民主権**の原理から**参政権は国民固有**とし、外国人への憲法保障を明確に否定(マクリーン事件の流れを継承)。

- 憲法93条2項の「住民」も**日本国民限定**と解釈(地方自治の民主主義基盤を国民主権に結びつける)。

- **傍論**(3番目の部分)が**部分的許容説**(地方レベルなら法律でOK)を示したため、**在日韓国・朝鮮人**の地方参政権付与運動の根拠判例となった(民主党政権時代に法案化試みも実現せず)。

- しかし、この部分は**判決主文に影響しない傍論**(園部逸夫裁判官も後年「理由付けにすぎない」と発言)であり、**拘束力なし**とする見解が有力。

- 以後、**外国人参政権**は**立法政策の問題**(国会に委ねられる)として扱われ、現在も法律改正なく**外国人参政権は認められていない**。

- 憲法学・行政法・政治学の教科書で**外国人参政権の古典判例**として必須。**国民主権 vs 人権保障**のバランス、**傍論の効力**をめぐる議論の原点。


この判決は、**外国人にも人権は及ぶ**(マクリーン・指紋押捺事件参照)とする一方で、**参政権は例外的に国民固有**とする厳格な立場を示し、以後の外国人権利論の枠組みを確定したものです。


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**外国人の公務就任権事件**(通称:東京都管理職選考受験拒否事件、外国人管理職選考事件)は、**地方公務員の管理職昇任**における**国籍条項**の憲法適合性をめぐる最高裁判例で、最高裁判所大法廷判決(平成17年1月26日、民集59巻1号56頁)が該当します。この判決は、**外国人地方公務員の就任可能性**を認めつつ、**公権力行使等地方公務員**への就任を原則として想定外とする立場を示したものです。


### 事案の概要

- **当事者**:原告X(在日韓国人2世、特別永住者) vs 被告東京都

- **背景**:

  - Xは1990年頃、東京都に**保健婦(保健師)**として採用され、勤務。

  - 1995年、東京都の**管理職選考試験**(課長級以上の管理職への昇任試験)を受験申請。

  - 東京都人事委員会の実施要綱で**受験資格に日本国籍を有することが必要**と定められていたため、**国籍を理由に受験を拒否**(申込書受領拒否)。

  - Xはこれを**違憲・違法**として、**受験資格確認・慰謝料請求**(国家賠償法1条)等を求めて提訴。

- **下級審**:

  - 一審(東京地裁 平成8年5月16日):請求棄却(合憲)。

  - 二審(東京高裁 平成9年11月26日):一部認容(東京都に慰謝料40万円支払い命令)。管理職の中には**公権力行使の蓋然性が低い職**もあり、一律排除は**不合理**と判断。

  - 東京都が上告。


争点:

- 地方公共団体が**日本国民に限って管理職に昇任**できるとする措置は、**憲法14条1項(法の下の平等)**・**労働基準法3条**(国籍による差別禁止)に違反するか?

- 外国人地方公務員の**公務就任権**(特に管理職)の範囲。


### 判旨(最高裁大法廷 平成17年1月26日 要旨)

最高裁大法廷(裁判長:町田顯長官)は、原判決を破棄し、**原告の請求を全部棄却**。以下の判断を示しました。


1. **外国人地方公務員の採用可能性**

   - 地方公務員法は**一般職の地方公務員**に**在留外国人**を任命することを**禁止していない**(明文規定なし)。

   - 普通地方公共団体は、**条例・人事委員会規則**等により、**在留外国人**を職員に任命することが**可能**(採用の裁量あり)。

   - 外国人採用の可否・範囲は**各地方公共団体の裁量**に委ねられる(オール・オア・ナッシングではなく、職種ごとの柔軟な対応可能)。


2. **公権力行使等地方公務員への就任**

   - 地方公務員のうち、**住民の権利義務を直接形成・確定**するなどの**公権力の行使**に当たる行為を行い、または**普通地方公共団体の重要な施策に関する決定**を行い・参画することを職務とするもの(**公権力行使等地方公務員**)については、

   - **国民主権の原理**に基づき、**国の統治のあり方**については**国民が最終的な責任**を負うべきであることに照らし、

   - 原則として**日本国籍を有する者**の就任が想定されており、**外国人の就任はわが国の法体系の想定するところではない**。


3. **管理職選考の国籍条項の合憲性**

   - 東京都の管理職任用制度は、**公権力行使等地方公務員**の職と**これに昇任するための職務経験を積む職**を**一体的に**捉えている。

   - したがって、管理職に昇任すれば**公権力行使等**を行うことが当然の前提となる。

   - 日本国民に限って管理職に昇任できるとする措置は、**合理的な理由**に基づく区別であり、**憲法14条1項**(平等原則)・**労働基準法3条**に違反しない。

   - 結果:**受験拒否は適法** → 慰謝料請求等棄却。


### 意義・ポイント

- **外国人地方公務員**の**一般職採用**を**明確に肯定**(多くの自治体で既に認められていた実務を追認)。

- 一方、**公権力行使等地方公務員**(管理職を含む重要なポスト)への就任は**原則として国籍を要する**とする**二分論**を採用(国民主権との整合性を重視)。

- **管理職の一体的任用**を理由に、**一律国籍条項**を合憲とした(高裁の「公権力行使の蓋然性低い職」の個別判断を否定)。

- 以後、**外国人地方公務員**の任用は**自治体の裁量**に委ねられ、**管理職・公権力行使職**については**国籍要件**が広く容認される基準となった。

- 憲法学・行政法の教科書で**外国人公務就任権**の代表判例として頻出。**地方参政権判決(平成7年2月28日)**の傍論(立法による参政権付与の許容)と並んで、**外国人権利の限界**を示す重要判例。

- 実務影響:多くの自治体で**外国人採用**は進んでいるが、**管理職**への昇任制限は依然として残るケースが多い。


この判決は、**国民主権**と**平等原則**のバランスを**国家・自治体側**に有利に解決したもので、外国人地方参政権判決と対をなす古典です。


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**塩見訴訟**(塩見日出訴訟)は、**外国人の社会保障権(生存権)**と**憲法25条**の解釈をめぐる憲法・社会保障法の重要判例です。最高裁判所第一小法廷判決(平成元年3月2日、民集43巻3号180頁、事件番号:昭和60(行ツ)92)が該当し、**外国人の社会権保障**について初めて最高裁が判断した古典的判例です。


### 事案の概要

- **原告**:塩見日出(女性、在日韓国人2世→帰化日本人)。

- **背景**:

  - 昭和9年(1934年)6月、大阪市で朝鮮人夫婦の長女として出生(当初日本国籍)。

  - 幼少期(2歳頃)に麻疹(はしか)にかかり、**両眼失明**(重度障害)。

  - 1952年4月、サンフランシスコ平和条約発効により日本国籍を喪失し、**韓国籍**(大韓民国籍)となる。

  - 昭和45年(1970年)12月、日本人男性と結婚後、**帰化**により日本国籍を取得。

- **争点の経緯**:

  - 国民年金法(旧法)施行時(昭和34年11月1日)の障害福祉年金(現・障害基礎年金)の廃疾認定日基準で、**昭和34年11月1日時点で外国人**だったため、**国籍条項**(改正前国民年金法56条1項但書)により支給対象外。

  - 塩見は、**障害福祉年金の支給**を大阪府知事に請求したが、**不支給処分**(国籍条項適用)。

  - これを不服として取消訴訟を提起(第一次塩見訴訟)。

  - 1982年、難民条約批准により国民年金法から国籍条項が削除されたが、**附則**で過去に遡及せず(第二次塩見訴訟も同様の争点)。

- **下級審**:一審・二審とも原告請求棄却(処分適法)。


争点:

- 改正前国民年金法の**国籍条項**および、**制度発足後に帰化**した者への不支給が、**憲法25条(生存権)**・**憲法14条1項(法の下の平等)**に違反するか?


### 判旨(最高裁第一小法廷 平成元年3月2日 要旨)

最高裁は、上告を棄却し、以下の判断を示しました。


1. **憲法25条の法的性格(堀木訴訟引用)**

   - 憲法25条1項・2項は、**福祉国家の理念**を宣言したものであり、**国の具体的義務**を直接定めたものではない。

   - 「健康で文化的な最低限度の生活」は**きわめて抽象的・相対的な概念**であり、これを現実の立法として具体化するには、**国の財政事情**を無視できず、多方面にわたる**複雑な政策的判断**を必要とする。

   - したがって、社会保障制度の具体化は**立法府の広い裁量**にゆだねられており、**著しく合理性を欠き、明らかに裁量の逸脱・濫用**と見ざるを得ない場合を除き、**裁判所が審査判断するに適しない**。


2. **外国人の社会保障処遇**

   - 社会保障上の施策において**在留外国人をどのように処遇するか**については、国は**特別の条約の存しない限り**、**外交関係・国際情勢・国内の政治・経済・社会的諸事情**等に照らしながら、**政治的判断**により決定することができる。

   - その**限られた財源**の下で福祉的給付を行うに当たり、**自国民を在留外国人より優先的に扱う**ことも、許されるべきことである。

   - 本件国籍条項および、制度発足後に帰化した場合の不支給は、**合理的な区別**であり、**憲法14条1項**に違反しない。

   - 障害福祉年金の支給をしないことは、**憲法25条**に違反しない(堀木訴訟の趣旨に徴して明らか)。


### 結果

- 不支給処分は**適法** → 原判決支持、上告棄却(原告敗訴確定)。

- 第二次塩見訴訟(遡及不適用)でも同様の判断(最高裁平成13年3月13日上告棄却)。


### 意義・ポイント

- **外国人の社会権(生存権)**について最高裁が初めて判断し、**外国人にも25条の保障は及ぶ**が、**具体的給付の範囲**は**立法府の広い裁量**に委ねられるとした(性質説の延長)。

- **自国民優先**を合理的な区別として肯定(マクリーン事件・外国人地方参政権判決の流れを継承)。

- **立法裁量論**を強調し、**社会保障の司法審査**を極めて消極的にする枠組みを確立。以後、年金・生活保護等の社会保障判例の基本スタンス。

- ただし、学説では「外国人の生存権保障の実質的否定」「国際人権基準との乖離」との批判も強い。

- 憲法学・行政法・社会保障法の教科書で**外国人の社会権**の代表判例として頻出。堀木訴訟(生活保護国籍条項)と並ぶ古典。


この判決は、**国民主権・財政事情**を重視し、**外国人の社会保障権**を**立法政策の問題**に委ねたもので、今日の外国人福祉政策の基盤となっています。

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慰安婦問題

平成16年(2004年)11月29日の最高裁判所第二小法廷判決(事件番号:平成15年(オ)第1895号)は、**アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件**(通称:韓国人戦争犠牲者補償請求事件)に関するものです。この判例は、戦後補償問題(特に旧日本軍関係の韓国人被害者に対する補償請求)で重要な判断を示したものです。


### 事案の概要

原告(上告人)らは、韓国在住の韓国人およびその遺族で、以下のいずれかに該当する者たちでした:

- 旧日本軍の**軍人・軍属**(志願兵制度、徴兵制度、自由募集、官斎旋、国民徴用令により動員された者)

- **軍隊慰安婦**(いわゆる従軍慰安婦)であった者


彼らは、第二次世界大戦(アジア太平洋戦争)中、これらの制度・措置により耐え難い苦痛・損害を受けたとして、日本国(被告・被上告人)に対し、次の請求を1991年および1992年に提起しました:

1. 損失補償または不法行為に基づく損害賠償(憲法29条3項に基づく補償請求を含む)

2. 未払給与債権等がある場合の損失補償

3. 補償のための立法措置を行わなかった**立法不作為**を理由とする国家賠償請求


下級審(東京地裁・東京高裁)で棄却されたため、上告され、最高裁が判断しました。


### 判旨(主な判決理由の要旨)

最高裁は上告を棄却し、原告らの請求をいずれも認めませんでした。主なポイントは以下の通りです:


1. **憲法29条3項に基づく補償請求について**  

   - 軍人・軍属関係の損失は、第二次世界大戦及びその敗戦によって生じた**戦争犠牲ないし戦争損害**に属する。  

   - これに対する補償は、憲法の全く予想しないところであり、憲法29条3項(財産権の侵害に対する補償)の適用はない(憲法は戦争犠牲一般への補償を予定していない)。  

   - 慰安婦関係の被害についても、同様に戦争遂行過程で生じた損害であり、憲法29条3項による補償請求権は発生しない。


2. **不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)について**  

   - 国家賠償法施行前(戦前)の公務員の行為については、国家無答責の原則が適用される(当時の法理)。  

   - また、請求権は除斥期間(または時効)の経過により消滅している。


3. **日韓請求権協定(1965年)との関係**  

   - 日本国と大韓民国との間の請求権は、**日韓基本条約**付属の「日本国と大韓民国との間の請求権及び経済協力に関する協定」により、完全かつ最終的に解決済み。  

   - 両国間における請求権問題は政府間協定で決着しており、個人請求権も含めて消滅したと解される。


4. **立法不作為による国家賠償請求について**  

   - 補償立法を行わなかったことは、国会の裁量の範囲内であり、違法な立法不作為とは認められない。  

   - 立法不作為を理由とする国家賠償請求は成立しない。


### 結論(主文)

- 本件上告を棄却する。  

- 上告費用は上告人らの負担とする。


この判決は、戦後補償問題で日本政府の立場(条約による解決済み、個人補償の法的義務なし)を最高裁レベルで確認した代表的な判例の一つです。以降の類似訴訟(強制連行・慰安婦関連など)でも同様の論理が援用されることが多く、戦後補償の司法的解決を困難にした重要な先例となっています。


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法人の基本権享有主体性

昭和45年(1970年)6月24日の最高裁判所大法廷判決(事件番号:昭和41年(オ)第444号、取締役の責任追及請求事件、通称:**八幡製鉄政治献金事件**または**八幡製鉄事件**)は、**法人の基本権享有主体性**(特に表現の自由・政治活動の自由)をめぐる代表的な憲法判例です。この判決は、営利法人(株式会社)が政治献金を行うことの適法性と、憲法上の権利享有主体としての法人の地位を初めて明確に認めたものです。


### 事案の概要

- **当事者**:原告(上告人)は八幡製鐵株式會社(現・日本製鉄)の株主である老弁護士。

- **背景**:1960年(昭和35年)3月14日、八幡製鉄の代表取締役2名が、会社名義で自由民主党(自民党)に対し350万円の政治献金を行った。

- **定款の目的**:八幡製鉄の定款には「鉄鋼の製造及び販売ならびにこれに付帯する事業」と記載されており、政治活動は明示されていなかった。

- **訴訟提起**:原告株主は、会社による政治献金は定款所定の目的を逸脱する無償支出行為であり、商法266条1項5号(現・会社法423条1項など)に基づく取締役の忠実義務違反・定款違反であるとして、取締役に対し献金額相当の損害賠償を会社に支払うよう求める**株主代表訴訟**(代位訴訟)を提起した。

- **下級審**:

  - 第一審(東京地判昭和38年4月5日):政治献金は営利目的外の無償支出として目的外行為であり、取締役の責任を認める(原告勝訴)。

  - 第二審(東京高判昭和41年1月31日):金額が過大でない限り原則適法として、第一審を取消し、請求棄却(被告勝訴)。


原告が上告し、最高裁大法廷で審理された。


### 判旨(主な判決理由の要旨)

最高裁は原告の上告を棄却し、**会社による政治献金を原則として適法**と判断しました。主なポイントは以下の通りです:


1. **法人の基本権享有主体性(憲法上の権利能力)**  

   - 憲法第三章「国民の権利及び義務」は、**性質上可能な限り内国の法人にも適用**される。  

   - 法人(特に株式会社)は、自然人たる国民と同様に、**表現の自由(憲法21条)**をはじめとする**基本的人権の享有主体**となりうる。  

   - 政治的行為の自由(政治活動の自由)も、性質上法人に適用可能である。  

   → これにより、法人も**政治献金**という政治的表現行為を行う憲法上の権利を有すると認めた(通説・判例の基礎を確立)。


2. **会社の権利能力と目的の範囲**  

   - 会社は**定款所定の目的の範囲内**で権利能力を有する(商法旧94条、現・会社法26条の趣旨)。  

   - 「目的の範囲内」とは、定款に明示された目的に限定されず、**目的の遂行に直接・間接に必要な一切の行為**を含む。  

   - 政治献金は、会社の事業活動が国家の政治・行政施策に大きく影響を受ける以上、**事業目的達成のための間接的・必要的行為**として、原則として目的の範囲内と解される。  

   - ただし、**献金額が過大**であったり、**株主の利益を著しく害する特段の事情**がある場合には、目的外行為・忠実義務違反となり得る(本件では該当せず)。


3. **その他の論点**  

   - 憲法上の参政権(選挙権等)は自然人に限定されるが、**納税者としての立場**から意見表明(政治献金)する自由は法人にも認められる。  

   - 政党政治の重要性を強調し、企業が政党を支援する行為を肯定する趣旨の記述もある(この点は後に批判が多い)。


### 結論(主文)

- 本件上告を棄却する。  

- 上告費用は上告人の負担とする。


### 意義

- この判決は、**法人の人権享有主体性**を明確に認めた画期的な判例であり、以後の憲法学・会社法学で**法人の基本権享有主体性**の代表例として位置づけられる。

- 会社による政治献金を合法化したため、企業献金の合法性が長らく維持された(ただし、1994年の政治改革四法で企業献金は政党・政治資金団体に大幅制限された)。

- 判決の「政党政治賛美」部分や「納税と参政権の連動」論理は学説・世論から批判され、現在ではあまり積極的に援用されない。


この判決は、憲法判例百選Ⅰ(基本的人権)にも収録されており、法人の憲法上の地位を論じる際の必読判例です。

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憲法の間接適用

**三菱樹脂事件**(通称:三菱樹脂本採用拒否事件)は、日本国憲法の人権規定の**私人間効力**(私人相互間の適用)をめぐる代表的な憲法・労働法判例です。最高裁判所大法廷判決(昭和48年12月12日、事件番号:昭和43年(オ)第932号)で、**間接適用説**を採用し、**試用期間中の本採用拒否**の有効性についても重要な基準を示しました。


### 事案の概要

- **原告(X)**:高野達男(当時東北大学法学部卒業生)。

- **被告(Y)**:三菱樹脂株式会社(現・三菱ケミカル)。

- **経緯**:

  - 昭和38年(1963年)3月、XはY社の採用試験に合格し、管理職候補として**3か月の試用期間**を設けて雇用された(留保解約権付き)。

  - 採用試験の面接・身上調書で、Xは大学在学中の**学生運動(60年安保闘争)への参加**や**生協理事活動**などの事実を**秘匿(虚偽申告)**した。

  - 試用期間中にY社が経歴調査を行い、これらの事実が発覚。

  - 試用期間満了直前、Y社は「虚偽申告」および「思想・信条が管理職に不適格」との理由で**本採用を拒否**(留保解約権の行使)。

- **訴訟**:Xは**労働契約関係存在確認**を求めて提訴。

  - 第一審(東京地判昭和42年7月17日):X勝訴(本採用拒否無効)。

  - 第二審(東京高判昭和43年6月12日):X勝訴(思想・信条の自由を重視し、思想調査自体を違法と判断)。

  - Y社が上告し、最高裁大法廷で審理。


### 判旨(主な判決理由の要旨)

最高裁はY社の上告を一部認め、原判決を破棄して差し戻し(Xの請求を一部棄却する方向で判断)。主なポイントは以下の通りです:


1. **憲法の人権規定の私人間効力(間接適用説)**  

   - 憲法第三章(特に**14条(法の下の平等)**・**19条(思想・良心の自由)**)は、**国または公共団体と個人**との関係を規律するものであり、**私人相互の関係を直接規律するものではない**(直接適用説を否定)。

   - ただし、私人間においても、**公序良俗(民法90条)**などの私法一般条項を通じて、憲法の**趣旨・目的**に反する行為は違法・無効となりうる(**間接適用説**を採用)。  

   → これが日本における通説の基礎となった。


2. **特定の思想・信条を理由とする雇入れ拒否**  

   - 企業には**雇入れの自由**(憲法22条・29条の営業の自由・財産権から導かれる)が広く認められる。

   - 特定の思想・信条を有することを理由に雇入れを拒否しても、**当然に違法**とはならない。

   - ただし、**公序良俗に反する不当な差別**(社会的に許容される限度を超える場合)は違法となりうる。


3. **思想・信条に関する調査・申告要求**  

   - 企業が採用に当たり、労働者の思想・信条を調査し、関連事項の申告を求めることは、**直ちに違法ではない**。

   - ただし、調査の目的・方法・程度が社会通念上相当でなければ、公序良俗違反となる可能性あり(本件では問題なしと判断)。


4. **試用期間中の本採用拒否(留保解約権の行使)**  

   - 試用期間は**後日における調査・観察に基づく最終的決定を留保**する趣旨であるため、通常の解雇より**広い解雇権**が認められる。

   - しかし、無制限ではなく、**解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由**があり、**社会通念上相当**と是認される場合に限り有効。

   - 本件では、Xの**虚偽申告**(学生運動等の秘匿)とそれによる**管理職適格性の欠如**が、合理的な理由に該当すると判断(本採用拒否を有効とした)。


### 結論(主文の要点)

- 原判決を破棄。

- 事件を東京高裁に差し戻し(差戻し審で和解成立:昭和51年3月11日、Xは復職し、後に子会社社長に就任)。


### 意義

- **私人間効力**については**間接適用説**を明確に採用し、以後の憲法学・判例の基本線となった。

- **採用の自由**と**思想・信条の自由**の衝突を利益衡量で解決。

- **試用期間の本採用拒否**の基準(客観的合理性+社会通念上相当)は、現在も労働契約法16条(解雇権濫用法理)の先駆けとして重要。

- 憲法判例百選や労働法判例集の必読判例。


この事件は、戦後日本の企業採用慣行(思想調査の是非)と憲法的人権保障の交錯を象徴するものです。以降の採用差別訴訟(部落差別、性差別など)でも頻繁に引用されます。

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大学における学生の自由


**昭和女子事件**(正式名称:**昭和女子大学事件**、通称:昭和女子大事件)は、私立大学における学生の政治活動規制と**憲法の人権規定の私人間効力**(特に思想・良心の自由、政治活動の自由、学問の自由、教育を受ける権利)をめぐる代表的な憲法判例です。最高裁判所第三小法廷判決(昭和49年7月19日、事件番号:昭和42年(行ツ)第59号)で、**間接適用説**を採用し、私立大学の懲戒処分(退学)の有効性を認めたものです。


### 事案の概要

- **原告(上告人)**:昭和女子大学文家政学部(現・人間社会学部系)の学生2名(AとB、女性)。

- **被告(被上告人)**:昭和女子大学(保守的・非政治的・穏健中正な校風を建学の精神とする私立女子大学)。

- **背景**:

  - 大学は学則細則として「生活要録」を定めていた。主要規定:

    - 政治活動を行う場合は**事前に大学当局に届け出て指導を受ける**こと(生活要録6の6)。

    - 学外の団体に加入する場合は**大学当局の許可**を受けること(生活要録8の13)。

  - 1961年(昭和36年)頃、学生A・Bは大学に届け出ず:

    - 学内で**政治的暴力行為防止法案**(通称:暴防法、治安維持的な法案として左翼から反対強かった)反対の**国会請願署名運動**を実施。

    - 左翼系政治団体(**日本民主青年同盟**、民青同盟、共産党系)に無許可で加入(Aは加入、Bは加入申込)。

  - 大学側はこれを発見し、補導(説諭・自宅謹慎)を実施したが、学生らは反省せず、週刊誌やラジオ番組(「荒れる女の園」報道など)で大学側の取り調べを批判・公表。

  - 大学は「学校秩序を乱し、学生の本分に反する」として、1962年2月教授会で**退学処分**を決定。

- **訴訟**:学生らは**学生身分確認の訴え**(在学関係確認)を提起。

  - 第一審(東京地判昭和38年11月20日):退学処分を**公序良俗違反・無効**とし、原告勝訴(私立大学も公共性が高く憲法直接適用)。

  - 第二審(東京高判昭和42年4月10日):原判決取消し、処分有効(裁量権範囲内)、請求棄却。

  - 上告され、最高裁第三小法廷で審理(上告代理人:雪入益見外83名=弁護士84名)。


### 判旨(主な判決理由の要旨)

最高裁は全員一致で上告を棄却し、**退学処分を有効**と判断。主なポイントは以下の通りです:


1. **憲法の人権規定の私人間効力(間接適用説の再確認)**  

   - 憲法19条(思想・良心の自由)、21条(表現・結社の自由)、23条(学問の自由)、26条(教育を受ける権利)等の**自由権的基本権**は、国または公共団体の統治行動に対して個人の自由を保障するものであり、**私人相互の関係を直接規律するものではない**(直接適用説を否定)。  

   - 三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日)を引用し、**私人間においても公序良俗(民法90条)などの私法一般条項を通じて憲法の趣旨・目的に反する行為は無効**となりうる(**間接適用説**を採用)。  

   - したがって、生活要録の規定そのものを**憲法に直接違反する**として無効と論ずる余地はない。


2. **生活要録の規定の合理性**  

   - 私立大学は**建学の精神・教育方針**に基づき、学生の政治活動を規制する自治権を有する。  

   - 本件大学は保守的・非政治的校風であり、政治的目的の署名運動や学外政治団体加入を放任することは**教育上好ましくない**とする見地から規制するのは合理的。  

   - 生活要録の規定は、学生の**選挙権・請願権・教育を受ける権利**と直接かかわりのないものであり、**不合理な規制**とはいえない。


3. **退学処分の有効性**  

   - 大学の懲戒処分(退学)は、**教育・研究施設としての内部規律維持**と**教育目的達成**のための自律的措置。  

   - 懲戒権の発動・処分選択は、行為の軽重・本人の性格・平素の行状・他の学生への影響などを総合考慮し、**学長の裁量**に委ねられる。  

   - 本件では、学生の行為(無届政治活動+大学批判の公表)は秩序を乱すものであり、**補導後も改悛がない**ため、**裁量の範囲内**で退学は有効。  

   - 思想・信条を理由とする**差別的取扱**ではなく、学問の自由の侵害でもなく、教育を受ける権利の違法な剥奪でもない。


### 結論(主文)

- 本件上告を棄却する。


### 意義

- **私人間効力**については三菱樹脂事件に続く**間接適用説**の確定判例となり、以後の大学・企業等の私人間関係での憲法適用論の基礎。

- 私立大学の**教育自治・懲戒裁量**を広く認め、学生運動激化期(1960年代)の大学当局の処分を司法が容易に無効化しない姿勢を示した。

- 一方で、「思想・良心の自由を軽視」「大学自治の名の下に人権制限を容認」との批判が強く(特にリベラル学説から)、部分社会論(大学は特殊な部分社会)との併用で司法審査を緩やかにする傾向を象徴。

- 憲法判例百選I(人権)収録の必読判例で、私立大学と学生の関係における人権保障の限界を示す代表例。


この判決は、学生運動の時代背景を反映しつつ、私立大学の教育自由を重視した保守的な判断として位置づけられています。以降の大学紛争関連訴訟でも頻繁に引用されます。


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女性差別


**女子若年定年制事件**(通称:**日産自動車事件**または**日産自動車女子若年定年制事件**)は、企業における**男女別定年制**(女子の定年年齢を男子より若く設定する制度)の合理性と憲法14条(法の下の平等)の私人間効力をめぐる代表的な憲法・労働法判例です。最高裁判所第三小法廷判決(昭和56年3月24日、事件番号:昭和53年(オ)第1247号、民集35巻2号300頁)が有名で、**民法90条(公序良俗)を通じた間接適用**により、**性別のみによる不合理な差別**を無効と判断した画期的な判決です。


### 事案の概要

- **原告(X)**:女性従業員(プリンス自動車工業→日産自動車に合併後勤務)。

- **被告(Y)**:日産自動車株式会社。

- **経緯**:

  - Xはプリンス自動車工業に勤務(合併前は男女同一の55歳定年)。

  - 1966年(昭和41年)、プリンス自動車工業が日産自動車に吸収合併。

  - 合併後の日産自動車の就業規則では、**男子定年55歳(後に60歳に引上げ)**、**女子定年50歳**と定められていた。

  - 1969年(昭和44年)1月、Xが満50歳に達したため、Y社は**女子若年定年制**に基づき退職を命じた。

  - Xはこれを不服とし、**従業員たる地位の確認**を求める訴えを提起(本訴)。併せて地位保全の仮処分も申請したが、下級審で敗訴。

- **下級審**:

  - 第一審(東京地裁):請求棄却(男女別定年制に合理性あり)。

  - 第二審(東京高裁昭和54年3月12日):原判決取消し、**男女別定年制を無効**とし、X勝訴(Yの上告)。


### 判旨(主な判決理由の要旨)

最高裁はY社の上告を棄却し、**原判決を支持**。女子の定年年齢を男子より低く定めた部分を**無効**と判断しました。主なポイントは以下の通りです:


1. **憲法の人権規定の私人間効力(間接適用説の適用)**  

   - 憲法14条1項(法の下の平等)は、国・公共団体に対する直接適用が原則だが、私人間においても**民法90条(公序良俗)**などの私法一般条項を通じて、憲法の趣旨・目的に反する著しく不合理な差別は無効となる(**間接適用説**)。  

   - 三菱樹脂事件・昭和女子大事件に続く流れで、性別による労働条件差別についてもこの論理を適用。


2. **男女別定年制の合理性審査**  

   - 就業規則の定年制規定は、**企業経営上の合理的理由**がなければ、**性別のみによる不合理な差別**に当たり、公序良俗に反して無効(民法90条)。  

   - 原審が認定した事実(Y社における女子従業員の担当職種の広範さ、男女の勤続年数、高齢女子の労働能力、定年制の一般的現状など)を総合考慮。  

   - **Y社の企業経営上の観点から、女子を差別的に定年退職させる合理的理由は認められない**。  

   - 担当職務が広範囲で、女子従業員全体を「貢献度が上がらない」とみる根拠はなく、労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇する不均衡も生じていない。少なくとも60歳前後までは男女とも通常職務を遂行可能であり、一律に不適格として排除する合理性はない。


3. **結論**  

   - Y社の就業規則中、**女子の定年年齢を男子より低く定めた部分**は、**専ら女子であることのみを理由とする不合理な差別**に帰着する。  

   - したがって、**民法90条により公序良俗に違反して無効**。  

   - Xの従業員地位確認の請求を認容(X勝訴)。


### 結論(主文)

- 上告を棄却する。


### 意義

- **男女別定年制**を**性別のみによる不合理な差別**として無効とした最高裁判例の代表例。以降の類似訴訟で広く引用され、**女子若年定年制**の廃止を加速させた。

- 1985年(昭和60年)の**男女雇用機会均等法**(現・男女雇用機会均等法第6条)で**男女別定年制の禁止**が明文化されたため、以後この種の憲法解釈論は実務上ほぼ生じなくなった(法改正により解決)。

- 私人間効力論では**間接適用説**を再確認し、**合理性審査**の基準を示した点で重要。労働条件差別禁止の流れを司法が後押しした象徴的判例。

- 憲法判例百選や労働法判例集の必読判例で、戦後女性労働者の地位向上を象徴するもの。


この判決は、1970年代~80年代の女性差別是正運動の成果を反映し、企業の人事制度に大きな影響を与えました。以降の判例(例:東芝柳町事件など)でも同様の合理性審査が適用されています。


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事案と判旨はGrok

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第三者所有物の没収

憲法29.31条

**第三者所有物の没収事件**(通称:**第三者所有物没収事件**、**第三者没収事件**)は、刑事事件における**第三者所有物の没収**(被告人以外の第三者の所有物を附加刑として没収する場合)の手続と憲法上の適正手続(憲法31条)・財産権(憲法29条)の関係をめぐる代表的な憲法判例です。最高裁判所大法廷判決(昭和37年11月28日、事件番号:昭和30年(あ)第2961号、刑集16巻11号1593頁)が有名で、**告知・弁解・防御の機会**を与えない没収手続を違憲とする画期的な判断を示しました。この判決は、以後**刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法**(昭和38年法律第138号)の制定を促した重要な先例です。


### 事案の概要

- **被告人(上告人)**:X1およびX2(密輸出未遂の共犯)。

- **事件**:昭和29年(1954年)10月、被告人らは機帆船「大栄丸」を用いて、服地等の貨物を韓国(大韓民国)へ**密輸出しようとした**が、門司水上警察署員に発見・逮捕され、**関税法違反(密輸出未遂)**で起訴。

- **適用法**:旧関税法(昭和42年改正前)第118条1項(当時の規定)により、犯罪に使用した船舶・貨物は没収可能とされ、第三者所有物であっても没収対象となり得る。

  - 船舶「大栄丸」および積載貨物は**第三者(被告人らとは無関係な所有者)**の所有物であった。

- **下級審**:

  - 第一審(福岡地裁小倉支部判昭和30年4月25日):被告人らに執行猶予付き懲役刑を言い渡し、船舶・貨物の**没収**を決定。

  - 第二審(福岡高裁判昭和30年9月21日):控訴棄却、没収を維持。

- **上告理由**:被告人らは、**第三者所有物の没収**が告知・弁解・防御の機会を与えないまま行われたことは**憲法31条(適正手続)**・**29条(財産権)**に違反すると主張し、上告。


### 判旨(主な判決理由の要旨)

最高裁大法廷は、**全員一致**で原判決を破棄し、第三者所有物の没収に関する部分を違憲無効とし、事件を差し戻しました。主なポイントは以下の通りです:


1. **第三者所有物の没収の実体規定の合憲性**  

   - 関税法118条1項自体は、**第三者所有物の没収**を禁止するものではなく、**犯罪に使用された物**(船舶・貨物)を没収する趣旨であり、**法令自体は違憲ではない**(没収の対象を限定解釈可能)。


2. **手続の違憲性(適正手続違反)**  

   - 第三者の所有物を没収する場合、その没収に関して**当該所有者(第三者)に対し、何ら告知・弁解・防御の機会を与えることなく**、その所有権を奪うことは、**著しく不合理**であり、憲法の容認しないところ。  

   - 憲法29条1項は「財産権は、これを侵してはならない」と規定し、憲法31条は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」と規定。  

   - 第三者所有物の没収は、**被告人に対する附加刑**として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に及ぶものである以上、**適正な法手続**(告知・弁解・防御の機会)を欠く没収は、**財産権を侵害する制裁**に外ならない。  

   - したがって、**第三者への何らの手続保障もないままの没収**は**憲法31条・29条に違反**する。


3. **被告人の上告適格(違憲審査権の範囲)**  

   - 没収の言渡を受けた被告人は、たとえ**第三者の所有物**に関する場合であっても、それが**被告人に対する附加刑**である以上、**没収の裁判の違憲**を理由として**上告することができる**(当然)。  

   - 被告人自身も、没収により**占有権の剥奪**・**使用収益の不能**、さらには第三者から**賠償請求**等の危険に曝されるなど、**現実の具体的不利益**を蒙る利害関係がある。  

   - したがって、被告人の上告により**違憲審査**を行うことは、**憲法81条の違憲審査権の範囲内**であり、抽象的判断ではない。


### 結論(主文の要点)

- 原判決中、没収に関する部分を破棄。

- 事件を福岡高裁に差し戻し(差戻し後、没収部分は取り消された)。


### 意義

- **第三者所有物の没収**に**適正手続**(告知・聴聞・防御機会)を要求した**初めての最高裁判例**。  

- これにより、**第三者保護**のための立法が急務となり、**昭和38年**に**刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法**が制定(第三者への告知・参加機会の付与、事後取消請求権の創設)。  

- 現代の刑事訴訟法・没収手続(組織犯罪処罰法の没収制度など)でも、第三者保護の原則が定着。  

- 憲法判例百選Ⅱ(人権・統治機構)収録の必読判例で、**適正手続**の私人間効力・第三者保護の観点から重要。  

- 少数意見(一部裁判官)は、第三者保護は別途の行政訴訟等で足りるとするが、法廷意見は被告人の上告適格を広く認めた。


この判決は、戦後憲法下での**刑事没収制度**の適正化を象徴するもので、以後の**没収手続改革**の契機となりました。


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刑罰法規の明確性

福岡県青少年保護育成条例事件

**福岡県青少年保護育成条例事件**(通称:**福岡県淫行条例事件**または**淫行条例事件**)は、地方自治体の**青少年保護育成条例**(いわゆる淫行条例)で規定された「淫行」の禁止・処罰規定が、**憲法31条(罪刑法定主義・刑罰法規の明確性)**に違反するかどうかをめぐる代表的な憲法判例です。最高裁判所大法廷判決(昭和60年10月23日、事件番号:昭和57年(あ)第621号、刑集39巻6号413頁)が有名で、**合憲限定解釈**により条例を合憲と判断したものです。


### 事案の概要

- **被告人(上告人)**:X(事件当時26歳、料理店男性店員)。

- **被害者(相手方)**:Y(16歳の女子中学校卒業生)。

- **経緯**:

  - 1981年(昭和56年)3月下旬頃:Xは初対面のY(中学校卒業直後)をドライブに誘い、海岸で駐車させた自動車内で「俺の女にならんか」と言って**いきなり性交**。

  - 1981年7月13日午後3時頃:XはYが18歳未満であることを知りながら、福岡県内のホテル客室で**性交**。

  - これらの行為が、**福岡県青少年保護育成条例**(当時)10条1項(「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない」)および16条1項(違反者に2年以下の懲役または10万円以下の罰金)の処罰規定に違反するとされ、**起訴**。

- **条例の定義**:

  - 青少年:小学校就学の始期から満18歳に達するまでの者(3条1項)。

  - 目的:青少年の健全な育成を図るため保護(1条1項)。

- **下級審**:

  - 第一審(小倉簡裁判昭和56年12月14日):罰金5万円の有罪(被告の憲法主張に判断せず)。

  - 第二審(福岡高裁判昭和57年3月29日):控訴棄却、有罪維持(条例の合理性を肯定)。


被告人が上告し、**憲法31条違反**(刑罰法規の不明確性・罪刑法定主義違反)を主張。


### 判旨(主な判決理由の要旨)

最高裁大法廷は**上告を棄却**し、有罪を確定(多数意見12対反対意見3)。主なポイントは以下の通りです:


1. **条例の合憲性(憲法31条との関係)**  

   - 刑罰法規は、**何が処罰の対象となるか**を**一般人が理解できる程度に明確**に定めなければならない(罪刑法定主義・明確性の原則)。  

   - 福岡県条例10条1項の「淫行」の文言は一見不明確に見えるが、**条例の目的・趣旨**(青少年の心身の未成熟による精神的保護)を考慮し、**限定解釈**を加えることにより、**通常の判断能力を有する一般人の理解にかなう**範囲に収まる。  

   - したがって、**条例規定は憲法31条に違反しない**(合憲)。


2. **「淫行」の限定解釈(合憲限定解釈の代表例)**  

   - 「淫行」とは、単なる性交・性交類似行為ではなく、以下のいずれかに該当する場合に限る:

     - 青少年を**誘惑・威迫・欺罔・困惑**させるなど、**心身の未成熟に乗じた不当な手段**により行う性交又は性交類似行為。

     - 青少年を**単に自己の性的欲望を満足させるための対象**として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為。

   - 例として、**婚約中**または**これに準ずる真摯な交際関係**にある青少年との性行為は、**淫行に当たらない**(処罰対象外)。

   - この解釈により、条例は**過度に広範**ではなく、**明確性**を有する。


3. **その他の論点**  

   - 青少年の**心身の未成熟**から、性行為による精神的痛手を受けやすく回復が困難であるため、**保護の必要性**は高い。

   - 民法上の婚姻年齢(当時女子16歳)との差別(憲法14条)主張についても、**条例の保護目的**から合理的差別と判断。

   - 反対意見(伊藤正己・谷口正孝・島谷六郎判事):条例の「淫行」概念が**不明確**で、**恣意的な適用**の危険があり、憲法31条違反として無罪相当。


### 結論(主文)

- 本件上告を棄却する。


### 意義

- **合憲限定解釈**の典型例として、**刑罰法規の不明確性・過度広範性**を回避するための重要な技術を示した。

- 以降の**青少年保護育成条例**(淫行条例)適用で、「淫行」の判断基準として広く援用され、**真剣な恋愛関係**(真摯な交際)であれば処罰されないという運用が定着。

- 地方自治体の**青少年保護立法**の合憲性を肯定しつつ、**人権保障**とのバランスを取った判決。

- 憲法判例百選や刑法・憲法の教科書で必読の判例。**徳島県公安条例事件**(最大判昭和50年9月10日)の明確性基準を踏まえたもの。


この判決は、1980年代の青少年保護と性的自由の衝突を象徴し、現在も出会い系サイト経由の事案などで頻繁に引用される重要な先例です。以降の類似条例事件(例:岐阜県事件など)でもこの限定解釈が基本となっています。

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行政上の不利益処分と適正手続き

**成田新法事件**(正式名称:**新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法**(通称:成田新法)事件)は、成田国際空港(当時新東京国際空港)の開港阻止を目的とした過激派の妨害活動(団結小屋・要塞の設置など)に対する行政処分(工作物使用禁止命令)の合憲性と、**憲法31条(適正手続の保障)**・**35条(令状主義)**の行政手続への適用をめぐる代表的な憲法・行政法判例です。最高裁判所大法廷判決(平成4年7月1日、事件番号:昭和61年(行ツ)第11号、民集46巻5号437頁)が有名で、**行政手続への憲法31条適用の可能性**を初めて明確に認めた画期的な判決です。


### 事案の概要

- **背景**:1978年(昭和53年)5月、新東京国際空港(成田空港)の開港直前、過激派(三里塚芝山連合空港反対同盟など)が空港内に火炎瓶投擲車で突入・管制塔占拠などの暴力主義的破壊活動を行い、開港を阻止。周辺に「団結小屋」「横堀要塞」などの工作物を多数設置し、出撃拠点化。

- **成田新法の制定**:同年5月13日、議員立法により**新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法**(成田新法)が即日公布・施行(現・成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法)。  

  - 目的:新空港及び周辺での暴力主義的破壊活動の防止(1条)。

  - 主な規定:運輸大臣は、規制区域内の工作物が暴力主義的破壊活動に使用され、または使用されるおそれがあると認めるとき、**工作物の使用禁止命令**を発することができる(3条1項)。命令発出後、必要に応じ令状なしに立入・質問可能(3条3項)。行政手続法の適用除外(8条)。

- **本件処分**:運輸大臣は1979年(昭和54年)以降毎年2月、原告(反対同盟メンバー)所有の工作物(小屋など)に対し、**1年間の使用禁止命令**を発出。

- **訴訟**:原告は、使用禁止命令が憲法違反(21条・22条・29条・31条・35条)として**処分取消**・**国家賠償**を請求。

  - 第一審・第二審:請求棄却(合憲)。

  - 上告され、最高裁大法廷で審理。


### 判旨(主な判決理由の要旨)

最高裁大法廷は原告の上告を一部棄却しつつ、**1985年2月1日の命令取消請求部分を破棄自判**(一部勝訴)。主なポイントは以下の通りです:


1. **憲法31条(適正手続の保障)の行政手続への適用**  

   - 憲法31条の法定手続の保障は**直接には刑事手続**に関するが、**行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない**(画期的な判示)。  

   - 行政手続は刑事手続と性質が異なり、目的に応じて多種多様であるため、**常に必ず事前の告知・弁解・防御の機会を与えることを必要とするものではない**。  

   - 保障の要否は、**制限される権利利益の内容・性質**と**達成しようとする公益の内容・程度・緊急性**を**総合較量**して決める。  

   - 本件工作物使用禁止命令は、制限される権利(工作物の使用=集会・居住・財産権)が重大である一方、**新空港の安全確保**は国家的・社会経済的・公益的・人道的見地から**極めて高度かつ緊急の必要性**がある。  

   - したがって、**事前の告知・弁解・防御機会の規定がなくても憲法31条に違反しない**(合憲)。


2. **憲法35条(令状主義)の適用**  

   - 憲法35条は**刑事手続における強制処分**に対する司法的抑制を保障する趣旨。  

   - 本件立入・質問は、**犯罪捜査のための強制**ではなく、**行政目的(空港安全確保)のための非直接的・間接的な措置**。  

   - 強制の程度・態様が直接的物理的でないことなどから、**裁判官の令状を要しない**(合憲)。


3. **その他の基本権(21条・22条・29条)との関係**  

   - 使用禁止命令は**集会の自由(21条1項)**・**居住・移転の自由(22条1項)**・**財産権(29条)**に対する制約。  

   - しかし、**公共の福祉(空港の安全確保)**による**必要かつ合理的な制約**であり、**過度に広範・不明瞭**ではない(合憲限定解釈を適用し、違憲性を否定)。  

   - 「暴力主義的破壊活動者」等を「現に行っている者または蓋然性の高い者」に限定解釈。


### 結論(主文の要点)

- 1985年2月1日の使用禁止命令取消請求部分を破棄自判(一部原告勝訴)。

- その他の部分は上告棄却(合憲)。


### 意義

- **行政手続への憲法31条適用可能性**を初めて明確に認めた**歴史的転換点**の判例。以後、**行政手続法**(1993年施行)の制定・適用拡大に大きな影響を与え、不利益処分時の**聴聞・弁明機会**が制度化された。

- ただし、**常に保障を要求するものではない**として**個別・具体的較量**を採用し、厳格適用を避けた点で、**実質的デュープロセス**の限界も示した。

- 成田闘争の象徴的事件として、**公共の福祉**と**個人の基本権**の衝突を利益衡量で解決した代表例。

- 憲法判例百選Ⅱ(統治機構・人権)収録の必読判例で、行政手続の適正手続論の基礎。


この判決は、成田空港開港(1980年代後半~)という国家的プロジェクトと住民・反対派の権利保障のバランスを司法が認めたもので、以後の空港・公共事業関連訴訟の枠組みとなりました。


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条例による罰則

**条例による罰則事件**(通称:**大阪市売春取締条例事件**または**条例罰則委任事件**)は、**地方自治法**が条例に罰則を設けることを認める規定(当時の地方自治法14条3項)が、**憲法31条(罪刑法定主義・明確性の原則)**に違反するかどうかをめぐる代表的な憲法判例です。最高裁判所大法廷判決(昭和37年5月30日、事件番号:昭和31年(あ)第4289号、刑集16巻5号577頁)が有名で、**地方自治法による罰則委任を合憲**とし、**条例による罰則制定を原則として認めた**画期的な判決です。


### 事案の概要

- **被告人(上告人)**:X(女性)。

- **事件**:大阪市内の路上で、**売春の目的で通行中の男性を誘った**行為が、**大阪市街路等における売春勧誘行為等の取締条例**(昭和25年大阪市条例第68号、以下「本条例」)2条1項(「何人も、街路等において売春の勧誘その他売春を勧める行為をしてはならない」)に違反するとされ、**起訴**。

- **条例の罰則**:本条例違反に対し、**6月以下の懲役若しくは禁錮又は1万円以下の罰金**(当時)。

- **根拠法**:**地方自治法**(当時)14条3項(普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、**2年以下の懲役若しくは禁錮、10万円以下の罰金**等を科する旨の規定を設けることができる)。

- **下級審**:

  - 第一審(大阪簡判昭和31年3月15日):有罪。

  - 第二審(大阪高判昭和31年10月18日):控訴棄却、有罪維持。

- **上告理由**:地方自治法14条3項は、**罰則の委任範囲が抽象的・不特定**であり、**罪刑法定主義(憲法31条)**に違反する。したがって同法条は無効であり、これに基づく本条例も無効であると主張。


### 判旨(主な判決理由の要旨)

最高裁大法廷は**上告を棄却**し、有罪を確定(全員一致)。主なポイントは以下の通りです:


1. **憲法31条と罰則の制定主体**  

   - 憲法31条は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」と規定するが、**必ずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならない**とするものではない。  

   - **法律の授権**によって、それ以下の法令(条例を含む)で刑罰を定めることもできる(憲法73条6号但書「法律の定める条件による」ことを明示)。  

   - 条例は**公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決**を経て制定される**自治立法**であり、**国会の議決を経て制定される法律に類する**性質を有する。  

   - したがって、**条例による罰則制定**は、**政令・省令等の行政規則**によるものとは質的に異なり、**より広い委任**を許容される。


2. **罰則委任の明確性・具体的限定**  

   - 法律の授権が**不特定な一般的白紙委任**的なものであってはならない(罪刑法定主義の要請)。  

   - しかし、**地方自治法14条3項**は、**条例の違反に対する罰則**として**2年以下の懲役・禁錮、10万円以下の罰金**等という**上限を定め**、**罰則の種類・程度を相当程度に具体的・限定**している。  

   - 条例制定事項自体も、**地方自治法2条**(地方公共団体の事務)に基づき、**住民の福祉の増進**等の範囲内に限られる。  

   - これにより、**罰則の委任は具体的特定を欠くものではなく**、**憲法31条に違反しない**(合憲)。


3. **本条例の合憲性**  

   - 本条例は、**売春勧誘行為**という**比較的明確な行為**を対象とし、**罰則の上限**も法定範囲内。  

   - したがって、本条例も**憲法に違反しない**。


### 結論(主文)

- 本件上告を棄却する。


### 意義

- **条例による罰則制定**を**原則合憲**とした**戦後初の最高裁判例**。  

- **地方自治法14条3項**(現・14条3項、罰則の上限を定める)の合憲性を確定。以後、**ほとんどの地方公共団体**が条例に罰則を設けることが可能となり、**公安条例・青少年保護育成条例**等の**地方罰則**の基盤となった。  

- **罪刑法定主義**の適用を**法律中心**から**法律の授権による条例**まで拡張し、**地方自治の本旨**(住民自治・地方分権)と**人権保障**のバランスを取った。  

- ただし、**白紙委任**は許されず、**相当程度に具体的・限定**された授権でなければならない(以降の判例で強調)。  

- 憲法判例百選Ⅱ(統治機構)や地方自治法判例百選の必読判例で、**条例罰則**の基礎を築いたもの。


この判決は、地方自治の強化と罪刑法定主義の調和を象徴し、現在も**地方罰則**の合法性の基準として広く援用されています。以降の**徳島市公安条例事件**(最大判昭和50年9月10日)などでも、この論理が基盤となっています。

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公の支配


**埼玉県吉川町幼児教室事件**(通称:**吉川町幼児教室事件**または**幼児教室公の支配事件**)は、**憲法89条後段**(公金その他の公の財産の支出・利用は「公の支配に属しない宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため」にはならない)の「**公の支配**」の概念をめぐる代表的な憲法判例です。最高裁判所大法廷判決(平成2年1月29日、事件番号:昭和62年(行ツ)第156号、民集44巻1号1頁)が有名で、**私立幼児教室への公の施設の無償貸与**が**公の支配**に属する教育事業に該当し、**憲法89条後段に違反しない**と判断したものです。


### 事案の概要

- **原告(上告人)**:X(吉川町住民)。

- **被告(被上告人)**:埼玉県吉川町(当時町制、現在吉川市)。

- **背景**:

  - 吉川町は、町有施設(土地・建物)を**私立幼児教室**(運営主体:私人または私的団体)に**無償で貸与**していた。

  - この幼児教室は、**幼児教育**を目的とした私的な事業(いわゆる幼児教室・幼児学級)で、町の教育行政とは直接関係なく運営。

  - 町は、**幼児教育の振興**という**公益目的**から、施設の無償使用を許可(行政措置)。

  - Xは、この**無償貸与**が**公金・公の財産の私的利用**に当たり、**憲法89条後段**(公の財産の宗教団体等への使用禁止の趣旨を拡張解釈した私的団体への禁止規定)に違反すると主張し、**住民訴訟**(地方自治法242条の2)を提起。

- **争点**:

  - 私立幼児教室への町有施設無償貸与は、**憲法89条後段**の「公の支配に属しない」事業への公の財産支出に該当するか?

  - より広く、**公の支配**(公権力の行使・公の管理下)の判断基準。

- **下級審**:

  - 第一審:請求棄却(公の支配に属する)。

  - 第二審(東京高裁):原判決支持、請求棄却。


### 判旨(主な判決理由の要旨)

最高裁大法廷は**上告を棄却**し、無償貸与を**合憲**と判断。主なポイントは以下の通りです:


1. **憲法89条後段の趣旨**  

   - 憲法89条後段は、公金・公の財産が**私的(特に宗教的)目的**で濫用されることを防止するための規定。  

   - 「公の支配に属しない」事業とは、**公権力が事業の運営・存立に影響を及ぼすことができず、公の利益に反した場合に是正できない**事業をいう。  

   - 逆に、**公の支配に属する**事業であれば、公の財産の支出・利用は**憲法上許容**される。


2. **「公の支配」の判断基準(本判決の核心)**  

   - 教育事業が**公の支配**に属するというためには、**必ずしも公権力が人事・予算に直接関与**する必要はない。  

   - **公の権力が事業の運営・存立に影響を及ぼすことにより**、事業が公の利益に沿わない場合に**是正しうる途**が確保され、**公の財産が濫費されることを防止しうる**ことがあれば足りる(**機能的・実質的支配**の基準を採用)。  

   - 本件では:

     - 町は**施設の無償貸与**を通じて、幼児教室の**存立基盤**を提供。

     - 貸与条件として**教育内容の指導・監督**が可能(または実質的に影響力行使可能)。

     - 町の**幼児教育振興**という公益目的が明確。

   - したがって、**私立幼児教室の事業は公の支配に属する**。


3. **結論**  

   - 本件無償貸与は、**公の支配に属する教育事業**に対する**公の財産の支出・利用**であり、**憲法89条後段に違反しない**(合憲)。  

   - 住民訴訟の請求を棄却。


### 結論(主文)

- 本件上告を棄却する。


### 意義

- **公の支配**の判断基準を**実質的・機能的**に緩やかに解釈し、**公の財産の私的事業への支出**を広く合憲化する方向を示した画期的な判例。

- 以後、**私立学校・幼稚園・幼児教室**等への補助金・施設貸与が**公の支配**に属するとされ、**憲法89条後段違反**の主張が退けられる基盤となった(いわゆる**幼稚園・私学助成**の合憲性の基礎)。

- 一方で、**公の支配**の範囲を拡大したため、**公金支出の監視**を求める住民訴訟のハードルを高くしたとの批判もある。

- 憲法判例百選や行政法・地方自治法の教科書で必読の判例。**公の支配**論の代表例として、後年の**学校法人補助金**事件や**私学助成**訴訟で頻繁に引用。


この判決は、平成初期の**公私混合型教育**(公の施設を私的幼児教育に活用)の合法性を司法が認めた象徴的なもので、現在も**幼児教育・保育施設**への公的支援の憲法適合性を論じる際の基礎となっています。


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板曼荼羅事件

**板まんだら事件**(いたまんだら事件)は、**司法権の範囲**(裁判所法3条1項の「法律上の争訟」)と**宗教上の教義・信仰の価値判断**の司法審査可能性をめぐる憲法・民事訴訟法の重要判例です。最高裁判所第三小法廷判決(昭和56年4月7日、民集35巻3号443頁)が特に有名で、**宗教的中立・信教の自由**(憲法20条)と司法権の限界を象徴する古典です。


### 事案の概要

- **背景**:創価学会(Y)が、日蓮正宗の本尊を安置するための**正本堂**建立を目的に、信者から寄付を募った。

  - 原告Xら(元創価学会員17名)は、1965年10月に合計約541万8805円(当時最高200万円)を寄付。

  - 正本堂は1972年に完成。

- **争点**:Xらは後に創価学会を脱退し、**「板まんだら」(板本尊)**が**日蓮聖人の真筆による本尊ではなく偽物**であると主張。

  - これにより、寄付の動機・目的(本尊安置のための寄付)に**要素の錯誤**(民法95条)が生じ、寄付行為(贈与)は無効。

  - したがって、創価学会に対する**不当利得返還請求**(民法703条)を提起(寄付金の返還を求める)。

- **下級審**:

  - **一審(東京地裁 昭和50年10月5日)**:板まんだらの真偽は**宗教の本質・信仰に直接かかわる**ため、訴えは**法律上の争訟に当たらず不適法** → 却下。

  - **二審(東京高裁 昭和51年3月30日)**:宗教上の行為でも**財産上の権利紛争**が生じれば審判対象 → 一審却下を取消し、**本案審理を命じる**(差戻し)。

  - 創価学会が上告。


### 判旨(最高裁第三小法廷 昭和56年4月7日 要旨)

最高裁は、**原判決(二審)を破棄**し、**一審の却下判決を支持**。上告を棄却し、訴えを**不適法**として却下。以下の判断を示しました。


- **法律上の争訟の要件**(裁判所法3条1項)

  - 裁判所が審判できるのは、**法律の適用により終局的に解決することができる**具体的権利義務ないし法律関係に関する紛争に限られる。

  - 本件は、**具体的な権利義務(不当利得返還請求)**の形式をとっている。

  - しかし、請求の当否を決する**必要不可欠な前提**として、**信仰の対象の価値または宗教上の教義に関する判断**(板まんだらが本物か偽物か、日蓮聖人の真筆か否か)が不可欠。

  - この判断は**法令の適用による終局的解決が不可能**であり、**科学的・客観的に証明できない**宗教的・信仰的問題。

  - 記録の経過から、本件訴訟の**争点・主張立証の核心**もこの宗教的判断にある。

- したがって、本件は**実質において法律上の争訟に当たらない**。

- **結果**:訴えは**不適法** → 却下(一審支持)。


(補足:寺田治郎裁判官は補足意見で「訴えは適法とし、本案で請求棄却すべき」との少数意見。)


### 意義・ポイント

- **司法権の限界**(審判権の限界)を明確に示した代表判例。

  - 宗教上の教義・信仰価値の判断は**司法審査の対象外**(裁判所の中立性・信教の自由保障)。

  - 形式的に法律関係の紛争でも、**核心が宗教的判断**なら**法律上の争訟に非ず**(門前払い)。

- 以後、**宗教団体内部紛争**(僧籍剥奪・代表者地位確認・戒律違反等)で頻用される枠組み(例:蓮華寺事件、最判平成元年9月8日)。

- **信教の自由**(憲法20条)と**司法の中立**を重視し、**国家権力(裁判所)の宗教介入**を厳しく制限。

- 憲法学・民事訴訟法・行政法(司法権の範囲)の教科書で**「法律上の争訟」の要件**として必須判例。**警察予備隊違憲訴訟**(統治行為論)と並ぶ、**司法権の積極性・消極性**をめぐる古典。


この判決は、**宗教的中立**を徹底し、**信仰の内面**を裁判所が踏み込まない姿勢を示した点で、戦後憲法下の宗教自由保障の象徴となっています。

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統治行為論


**苫米地事件**(とまべちじけん)は、**衆議院解散の効力**と**統治行為論**(司法権の限界)をめぐる憲法史上最も重要な判例の一つです。最高裁判所大法廷判決(昭和35年6月8日、民集14巻7号1206頁、事件番号:昭和30(オ)96)が該当し、**統治行為論**を真正面から採用した初めて(かつほぼ唯一)の判決として知られています。以後、憲法判断回避の典型パターンとなりました。


### 事案の概要

- **背景**:昭和27年(1952年)8月28日、第3次吉田内閣(吉田茂首相)は、**憲法7条3号**(天皇の国事行為:衆議院解散)を根拠に、**抜き打ち解散**(いわゆる「バカヤロー解散」後の強行解散)を行った。

  - 当時、憲法69条(内閣不信任決議後の解散)ではなく、**憲法7条**に基づく解散は憲法上許されるかで激しい論争があった。

- **原告**:苫米地義三(当時の衆議院議員、自由党所属)。

  - 解散により議員資格を失職。

  - 苫米地は「この解散は憲法違反で無効」と主張。

  - 任期満了(昭和29年1月23日)までの**議員資格確認**および**歳費支払請求**(約28万5000円)を国(被告)に対して提起。

- **訴訟経過**:

  - **第1次苫米地訴訟**:最高裁に直接出訴したが、警察予備隊違憲訴訟の先例により**却下**。

  - **第2次苫米地訴訟**(本件):通常の民事訴訟として提訴。

  - 一審(東京地裁 昭和28年10月19日):天皇の国事行為として解散は有効 → 原告敗訴。

  - 二審(東京高裁 昭和29年9月22日):統治行為論を否定し、本解散は内閣の助言がないため無効 → 原告一部勝訴(歳費請求認容)。

  - 国が上告 → 最高裁大法廷審理。


### 判旨(最高裁大法廷 昭和35年6月8日 要旨)

最高裁は、**原判決(二審)を破棄**し、**原告の請求を棄却**。以下の判断を示しました(多数意見)。


- **統治行為論(司法権の内在的制約)**:

  - 日本国憲法は**三権分立**を確立し、**司法権**はすべて裁判所の行うところとし(憲法76条1項)、**違憲審査権**を付与している(憲法81条)。

  - しかし、**あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象**となるものではない。

  - **直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為**(統治行為)は、たとえ**法律上の争訟**となり、有効無効の判断が法律上可能であっても、**裁判所の審査権の外**にある。

  - その判断は、主権者たる国民に対して**政治的責任**を負う**政府・国会等の政治部門**の判断に委され、最終的には**国民の政治判断**に委ねられている。

- **衆議院解散の位置づけ**:

  - 本件衆議院解散は、**国家統治の基本に関する高度に政治性**を有する行為。

  - したがって、**裁判所の司法審査権の範囲外** → 違法・無効の判断をせず、**審査拒否**。

- **結果**:歳費請求等を棄却(上告認容)。


(補足:少数意見では、解散について**司法審査可能**とし、本件解散は合憲・有効と判断するものもあったが、多数意見が統治行為論を採用。)


### 意義・ポイント

- **統治行為論**を**真正面から採用**した初めての判例(砂川事件は間接的・限定)。

- 砂川事件(昭和34年12月16日)で示された「一見して極めて明白に違憲無効」の留保を**本判決では設けず**、より厳格な司法自制を示した。

- 以後、**衆議院解散**の効力について**憲法判断を回避**するパターンが定着(例:鳩山内閣以降の解散訴訟はすべて却下・棄却)。

- 批判:**司法の役割放棄**「**違憲審査権の空洞化**」との指摘が強く、学説では**統治行為論不要説**・**限定説**が有力。以後、最高裁は**統治行為論**を**明示的に援用**しなくなった(長沼事件控訴審の付加意見を除く)。

- 憲法学の教科書で**司法権の限界**・**統治行為論**の代表判例として必須。**砂川事件**(外国軍駐留)と並ぶ**戦後憲法下の司法消極姿勢**の象徴。


この判決は、**権力分立**の下で**司法が政治的紛争に深入りしない**姿勢を明確にし、以後の憲法訴訟(特に政治的・高度政治的事案)の枠組みを決定づけた古典です。

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