行政法 司法試験重要判例

司法試験への出題が強く見込まれる判例についてまとめ。

事案と判旨について記載(by grok)

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**浦安漁港鉄杭撤去事件**(通称:浦安町鉄杭撤去事件、浦安ヨット係留杭事件など)は、行政法の重要判例の一つで、特に**法律による行政の原理(法律留保)**と**緊急時の行政措置**に関するものです。


### 事案の概要

- **時期**:昭和55年(1980年)6月頃

- **場所**:千葉県浦安町(当時、現・浦安市)の境川(一級河川で、浦安漁港の水域に含まれる)

- **内容**:サンライズヨットクラブ(代表者A)が、河川占用許可や漁港施設設置許可を受けずに、ヨット係留用の**鉄杭(鉄道レール)約100本**を約750mにわたって無許可で打ち込んだ。

- これにより、船舶(特に夜間・干潮時の漁船やボート)の航行が**非常に危険**な状態となった(川幅43mの半分以上を占拠)。

- 千葉県(河川管理者)は撤去を要請したが実行されず、地元漁師からの通報を受けた**浦安町長Y**は、県の対応が遅れるため**独自に強制撤去**を決断。

- 町は建設会社と請負契約を締結し、町職員とともに鉄杭を撤去(費用:請負代金130万円+職員時間外手当など)。

- 後に浦安市の住民が、**町長の行為は法律根拠のない違法な公金支出**であるとして、住民訴訟(地方自治法242条の2)を提起し、町長に損害賠償を請求。


### 判旨(最判平成3年3月8日 民集45巻3号164頁)

最高裁第二小法廷は、**一部破棄自判**(上告一部認容)で、以下の判断を示しました。


- 撤去行為自体は、**当時の漁港法および行政代執行法上、適法とは認められない**(違法)。

  - 理由:当時、浦安町は漁港管理規程を制定しておらず、町長に直接的な強制撤去権限(代執行権限)がなかった。河川法上の権限も県知事にあり、町長には及ばなかった。

- しかし、本件は**船舶航行の安全と住民の危難防止**という**緊急の事態**に対処するための**やむを得ない措置**であった。

- 浦安町は、漁港水域の障害除去・利用確保、公共の秩序維持、住民・滞在者の安全保持という任務を負っており(地方自治法2条3項1号参照)、町長はその責任を負う立場にあった。

- 本件鉄杭は設置場所・規模から**許可が到底あり得ず、存置が許されない明白なもの**であり、撤去による財産的価値の喪失もほとんどなかった。

- したがって、**民法720条の法意**(緊急避難・正当防衛類似の法理)に照らし、町としては撤去に要した費用を公金で支出することを**容認すべき**であり、**公金支出の違法性は認められない**。

- 結果:町長Yに浦安市に対する損害賠償責任はない(住民の請求棄却)。


### 意義・ポイント

- 法律留保の原則(行政は法律の根拠がなければ権力行使できない)を厳格に適用すると町長の行為は違法だが、**極めて緊急性・公益性が高い場合**には、民法上の緊急避難の法理を類推適用して**公金支出の違法性を阻却**できる、という柔軟な判断。

- 行政の「過小執行」(何もしないことによる危険放置)を防ぐ観点からも重要な判例。

- ただし、**撤去行為自体の適法性までは肯定していない**点に注意(支出の違法性のみを否定)。


この事件は、行政法の教科書・判例集で「緊急時の行政措置」「法律留保の例外」として頻出です。

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**青色申告承認申請家対事件**(通称:青色申告課税処分事件、信義則適用事件など)は、租税法における**信義則(信義誠実の原則)**の適用範囲を厳格に限定した重要な最高裁判例です。


### 事案の概要

- **当事者**:X(納税者、酒類販売業「B商店」の実質経営者) vs Y(税務署長)

- **背景**:

  - 元々、A(Xの実兄・養父)が戦前からB商店を経営し、青色申告の承認を受けていた。

  - Aがアルコール依存症で経営困難となったため、Xが昭和25年頃から実質的に経営を引き継ぎ、昭和29年頃からはXが中心に運営。

  - 昭和29年~昭和45年分までは、A名義で青色申告が継続されていた(承認はAに対するもの)。

  - 昭和46年分以降、Xは**自己名義**で青色申告書を提出したが、**X個人に対する青色申告の承認申請・承認は一切受けていなかった**。

  - 税務署長Yは、Xの青色申告の承認の有無を確認せず、昭和46年~昭和47年分までの青色申告書を**受理**し続け、青色申告として処理。

  - Aが昭和47年9月に死亡し、Xが事業を相続。

  - その後、Xからの自己申告(または調査)で税務署が「Xは青色申告の承認を受けていない」ことに初めて気づく。

  - Y税務署長は、昭和48年分・49年分について、**白色申告とみなして更正処分**(青色特典を否認し、追徴課税)。

- Xは「長期間青色申告を受理されていたのだから、税務署の対応により青色承認があると信頼した。いまさら白色扱いは信義則に反する」として、更正処分の取消を求めて提訴。


### 判旨(最判昭和62年10月30日 民集41巻7号1473頁 / 集民152号93頁)

最高裁第二小法廷は、**原判決破棄差戻**(二審がX勝訴だったのを覆した)し、以下の判断を示しました。


- 租税法規に適合する課税処分について、**信義則の法理**を適用して違法とする(処分取消)ことは**理論上可能**である。

- しかし、**租税法律主義の原則**(法律による行政・納税者間の平等・公平)が強く貫かれる租税法律関係においては、**信義則の適用は極めて慎重**でなければならない。

- 信義則により課税処分を違法とするためには、**特別の事情**が必要であり、少なくとも以下の要素を総合考慮すべき:

  1. 税務官庁が納税者に対し、**信頼の対象となる公的見解を表示**したこと

  2. 納税者が**その公的見解に基づいて行動**したこと

  3. その結果、**納税者に不利益**が生じたこと

- 本件では、税務署が単に「青色申告書を受理しただけ」で、**Xに対して「青色申告の承認がある」との積極的な公的見解を表示した事実はない**。

- 税務署の確認懈怠(ミス)はあったが、それは**単なる過失**にすぎず、納税者が**公権力の積極的な信頼誘導**を受けたとはいえない。

- したがって、本件更正処分に**信義則違反は認められず**、処分は適法。


### 意義・ポイント

- 租税分野における**信義則適用のハードルを極めて高く**設定した代表判例。

- 「税務署が長年青色申告を受理していた」だけでは信義則違反にならず、**積極的な信頼の誘発**(公的見解の表示)が必要とされた。

- 以後、税務行政のミスによる「黙認・宥恕」主張が容易に通らなくなった(いわゆる「青色申告黙認事件」として教科書・実務で頻出)。

- ただし、極めて例外的な「特別の事情」(税務署が明確に承認したかのような文書を出した等)があれば信義則適用余地は残る。


この判例は、租税法の「法律による行政」「租税法律主義」の厳格さを象徴するもので、行政法・租税法の講義・試験で必ず登場します。


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ⅩⅣ 行政上の不服申立て

127

処分の告示と不服申立期間の起算点

—最一小判平成14・10・24


この判例は、**最高裁判所第一小法廷 平成14年10月24日判決**(行政不服審査法14条1項の解釈に関するもの)で、行政判例百選(特に行政判例百選Ⅱ)において「処分の告示と不服申立期間の起算点」として採録されている重要判例です。


### 事案の概要

本件は、都市計画法に基づく**都市計画事業の認可**(例:土地区画整理事業などの大規模事業)に関するもので、処分が個別の関係人への通知ではなく、**官報や掲示等による告示**で多数の関係者に画一的に告知される場合に焦点が当てられています。


- 処分庁は、事業認可を告示により告知した。

- これに対して一部の関係者が不服申立て(審査請求)を行ったが、処分があったことを「知った日」から60日を経過していたとして却下された。

- これを不服として取消訴訟が提起され、行政不服審査法14条1項の「処分があったことを知った日」の起算点が争点となった。


(行政不服審査法14条1項:審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内にしなければならない。ただし、正当な理由がある場合はこの限りでない。)


### 判旨(要旨)

最高裁は、次のように判示しました。


> 行政処分が個別の通知ではなく告示をもって多数の関係権利者等に画一的に告知される場合には、行政不服審査法14条1項にいう「処分があったことを知った日」とは、**告示があった日**をいう。


- 個別通知の場合:通常、通知が到達・交付された日(知った日)が起算点。

- 告示による場合:処分の性質上、個別通知が予定されておらず、告示により効力が生じ、関係者全体に統一的に告知されるため、**告示の日**を知った日と解するのが相当。

- これにより、不服申立期間の起算点を明確にし、行政法律関係の安定を図りつつ、権利救済の機会を保障する。


### 意義・ポイント

- 行政不服審査法の不服申立期間の起算点について、**処分の告知方法による区別**を明確にした代表例。

- 都市計画事業認可、農地転用許可の告示型処分、線引き告示など、**多数当事者型・画一的処分**で頻出する論点。

- 個別通知型と告示型を分けて考えることで、期間徒過による却下の判断が変わるため、実務上極めて重要。

- 行政判例百選Ⅱ(第8版など)では事件番号127として収録されており、解説(山本紗知氏など)も詳細に掲載されている。


この判例は、行政処分の効力発生時期・告知方法と不服申立期間の関係を理解する上で基本的なものなので、行政法の学習・試験対策で必ず押さえておくべき判例です。


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ⅩⅤ 行政訴訟

(1) 裁判所の権限

137

法令に対する司法審査

—最大判昭和27・10・8


この判例は、**最高裁判所大法廷 昭和27年10月8日判決**(いわゆる「警察予備隊訴訟」または「付随的違憲審査制の確立判決」)で、行政判例百選Ⅱ(第8版など)において「法令に対する司法審査」として採録されている憲法・行政法の基本判例です。行政法判例百選では事件番号137番(または近似)として収録され、憲法81条の解釈をめぐる古典的判例です。


### 事案の概要

- 1950年(昭和25年)に警察予備隊(後の自衛隊の前身)が創設された。

- これに対し、原告(国会議員ら)は、警察予備隊設置を定めた**警察法(旧)**および関連政令・施行令などが**日本国憲法第9条**に違反するとして、**違憲確認の訴え**を提起。

- 具体的には、**具体的な行政処分が存在しない段階**で、**法律・命令自体の違憲性を直接争う**ことが可能か、裁判所に司法審査権限があるかが争点となった。

- 下級審では訴え却下されたが、上告審で大法廷が審理。


(本件は、抽象的・一般的審査ではなく、原告が「警察予備隊の存在により自分の地位・権利が侵害される」として提起した点がポイント)


### 判旨(要旨)

最高裁大法廷は、次のように判示しました(要約)。


> 裁判所は、**憲法第81条**により「一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する」ものとされ、**付随的審査権**を有する。  

> すなわち、**具体的事件において適用されるべき法令が憲法に違反する**と認められる場合には、**裁判所はその適用を拒否**し、違憲の法令を排除して判断することができる。  

> しかし、**具体的事件との関係を離れて**、抽象的に法律・命令等の合憲性を判断することはできない(**抽象的・一般的審査権の否定**)。


- 憲法81条は**付随的違憲審査制**(concrete case or controversy)を採用している。

- アメリカ型の**司法審査権**(judicial review)を継受しつつ、**抽象的審査**(advisory opinion)を排した。

- 本件では、警察予備隊の存在自体が原告の地位に直接影響を与える具体性があるとして、審査権限を肯定したが、**実体審査**では合憲と判断(警察予備隊は憲法9条違反ではない)。


### 意義・ポイント

- 日本国憲法下における**違憲審査制の基本枠組み**を確立した判例(いわゆる「警察予備隊事件」)。

- **付随的審査制**(incidental review)の原則を明確にし、**抽象的審査**を否定 → 現在の違憲審査の基本スタンス。

- 行政法分野では、「法令の違憲審査が司法審査の対象となりうる」ことを示し、**行政処分取消訴訟**等で法令の違憲性が争われる場合の前提となる。

- 行政判例百選Ⅱでは、**行政事件における法令の司法審査**の文脈で位置づけられ、**憲法81条の解釈**として重要。

- 以後の判例(例:砂川事件最大判昭34・12・16、苫米地事件最大判昭35・6・8など)で繰り返し引用・確認されている。

- 実務上、**法律・政令等の違憲主張**がなされた場合、裁判所は「具体的事件との関係」で審査する(抽象的主張は却下)。


この判例は、憲法学と行政法の交差点にある超重要判例で、司法試験・行政法試験で頻出です。違憲審査の「門戸」を開きつつ、無制限な司法積極主義を排したバランスの取れた判断として高く評価されています。


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(2) 行政訴訟と民事訴訟・刑事訴訟

142

行政訴訟と民事法上の契約

—最大判昭和45・7・15


この判例は、**最高裁判所大法廷 昭和45年7月15日判決**(昭和40年(行ツ)第100号 供託金取戻請求の却下処分取消請求事件)で、行政判例百選Ⅱ(第8版など)において「行政訴訟と民事法上の契約」または「行政上の法律関係と民事法の適用」などの文脈で採録されている重要判例です。行政法と民法の交錯、特に**行政処分性**と**民事契約的要素**の関係をめぐる古典的判例です。


### 事案の概要

- 債務者(A)が債権者(B)に対する弁済のために、**供託法**に基づき**弁済供託**を行った(供託所に金員を供託)。

- その後、債務者Aが供託金を取戻す請求をしたところ、供託官が「取戻事由がない」として**却下**した。

- Aはこれを不服として、**供託官を被告**とする**取消訴訟**(行政事件訴訟法3条2項に基づく)を提起。

- 争点は二つ:

  1. 供託金の取戻請求が却下された行為は**行政処分**か → 取消訴訟の対象となるか。

  2. 取戻請求権の**消滅時効**(民法166条1項、167条1項)の起算点・期間(本件では行政処分か民事かで適用法が異なる)。


(弁済供託は、民法の弁済供託制度を行政機関(供託官)が執行するもので、**公法・私法の混合的性格**を持つ)


### 判旨(要旨)

最高裁大法廷は、次のように判示しました(要約)。


> 一、弁済供託における供託金取戻請求が供託官により却下された場合には、供託官を被告として**却下処分の取消の訴**を提起することができる。  

> 供託官が供託金の取戻請求を理由がないとして却下した行為は**行政処分**に該当するから、**行政事件訴訟法**の適用があり、取消訴訟の対象となる。


> 二、供託金取戻請求権の**消滅時効**については、**民法**の規定が準用されるが、起算点は**供託官による却下処分**のあった時ではなく、**取戻請求権が発生した時**(供託時または相当の事由が生じた時)から起算し、期間は**10年**(民法167条1項)とする。


- **行政処分性**を肯定 → 供託官の却下は、公権力の行使として行政処分であり、**抗告訴訟**(取消訴訟)の対象。

- しかし、実体法関係(取戻請求権自体)は**私法上の権利**(民法496条1項の取戻請求権)であり、**民事法**(民法)の適用を原則とする。

- 時効については、**行政処分**の効力発生時ではなく、**私法上の請求権発生時**から進行すると判断(行政法上の時効ではなく民法時効適用)。


### 意義・ポイント

- 行政上の法律関係(公法関係)と民事法上の契約・権利(私法関係)の**境界**を明確にした代表例。

- **弁済供託**のような**公私混合的法律関係**(行政機関が私法上の行為を執行)で、**処分性**を肯定しつつ、実体は**民法**適用という**二重構造**を示した。

- 行政判例百選Ⅱでは、「行政訴訟と民事法上の契約」または「行政上の法律関係における民法の準用」として位置づけられ、**行政処分性の判断基準**や**民法準用の範囲**を学ぶ基本判例。

- 以後の判例(例:最判昭56・12・16 大阪空港公害訴訟、最判平21・7・10 公害防止協定事件など)で、公私混合関係における**行政訴訟の適否**や**私法適用**の論点として引用される。

- 実務上、**供託**、**公有財産の管理**、**行政契約**などで頻出の論点(処分か私法行為か? 取消訴訟か民事訴訟か?)の基礎。


この判例は、行政法と民法の接点(特に処分性と私法準用)を理解する上で極めて重要で、司法試験・行政法試験の頻出判例です。行政処分と民事契約的要素が絡む典型例として、しっかり押さえておきましょう。


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(3) 抗告訴訟の対象

147

土地区画整理事業計画

—最大判平成20・9・10


この判例は、**最高裁判所大法廷 平成20年9月10日判決**(浜松市土地区画整理事業事件、事件番号:平成17年(行ヒ)第397号)で、行政判例百選Ⅱ(第8版など)において「土地区画整理事業計画の決定の処分性」または「行政処分の処分性(事業計画決定)」として採録されている重要判例です。長年続いた判例変更の代表例で、行政法の**処分性**論の転換点です。


### 事案の概要

- 浜松市が施行する**土地区画整理事業**(遠州鉄道上島駅の高架化事業と連動した駅周辺整備を目的としたもの)の**事業計画決定**に対し、施行地区内の土地所有者(原告ら)が、**事業目的の欠如**(公共施設の整備改善・宅地の増進という土地区画整理法の目的を欠く)を主張して、**事業計画決定の取消し**を求めて取消訴訟を提起。

- 従来の判例(昭和41年2月23日大法廷判決、いわゆる「青写真判決」)では、土地区画整理事業の事業計画決定を「一般的・抽象的な青写真にすぎない」として**処分性を否定**し、取消訴訟の対象外として門前払い(不適法却下)としてきた。

- 本件でも下級審(一審・控訴審)ではこの旧判例を踏襲し、処分性なしとして却下されたが、上告審で大法廷が審理し、**判例変更**を宣言。


### 判旨(要旨)

最高裁大法廷は、次のように判示しました(要約)。


> 市町村の施行に係る土地区画整理事業の**事業計画の決定**は、施行地区内の宅地所有者等の**法的地位に変動をもたらす**ものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる**法的効果**を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。  

> よって、**行政事件訴訟法3条2項**の行政処分に当たる。


- **理由のポイント**:

  - 事業計画決定により、施行地区内の宅地所有者等は、**建築制限**(土地区画整理法76条1項)等の規制を受け、**換地処分を受けるべき地位**に置かれる。

  - 事業計画決定後、特段の事情のない限り、計画どおりに事業が進行し、**換地処分が当然に行われる**ため、権利への影響は**具体的・直接的**。

  - 従来の「青写真」論(一般的・抽象的効果のみ)は否定され、**直接具体的法効果**が生じる。

  - さらに、**実効的な権利救済**の観点から、早期(事業計画決定段階)での司法審査を認めるのが相当(後行の換地処分取消訴訟では、事業全体の違法審査が困難になる場合がある)。


- 結果:原判決(却下)を破棄し、差し戻し(処分性を肯定し、実体審理へ)。


(補足意見・意見もあり、特に近藤崇晴裁判官の補足意見では、判例変更の遡及効や第三者効の問題を丁寧に論じている)


### 意義・ポイント

- 行政法の**処分性**判断基準の転換:従来の「青写真判決」(最判昭41・2・23)を**42年ぶりに変更**し、土地区画整理事業計画決定に**処分性**を認めた画期的な判例。

- **公権力性+直接具体的法効果**に加え、**実効的権利救済**の観点を重視した新しいアプローチを示した。

- 都市計画事業(特に土地区画整理・市街地再開発など)の**事業計画決定**段階での司法審査を可能にし、住民の早期救済を強化。

- 以後の判例・実務に大きな影響(例:類似の都市計画決定、開発許可の事前審査などでの処分性論に波及)。

- 行政判例百選Ⅱでは、**処分性の判断基準**(特に事業計画型行政行為)の文脈で位置づけられ、**判例変更**の典型例として詳細に解説されている。

- 試験対策上、**昭和41年判決との対比**、**処分性肯定の三段階論理**(法効果の具体性+予測可能性+実効的救済)を押さえることが必須。


この判例は、行政訴訟法の**抗告訴訟の門戸**を広げた象徴的なもので、行政法学習・司法試験で頻出の超重要判例です。処分性論の現代的理解の出発点として、しっかり記憶しておきましょう。


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(4) 原告適格

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原子炉設置許可と第三者の原告適格

—最三小判平成4・9・22


この判例は、**最高裁判所第三小法廷 平成4年9月22日判決**(伊方原子力発電所設置許可処分取消請求事件)で、行政判例百選Ⅱ(第8版など)において「原子炉設置許可と第三者の原告適格」として採録されている重要判例です。原子炉等規制法に基づく設置許可処分の**原告適格**(行政事件訴訟法9条)をめぐる代表例で、行政法の抗告訴訟要件論の基本です。


### 事案の概要

- 四国電力株式会社が、愛媛県伊方町に原子力発電所(伊方原発)の原子炉設置を申請し、通商産業大臣(当時)がこれを許可した。

- これに対し、原子炉設置予定地から約5km〜100km以内に居住する住民ら(原告)が、許可処分が原子炉等規制法24条の安全基準に適合しない(例:耐震設計の不備、地質的不安定性等)として、**取消訴訟**を提起。

- 下級審では、原告適格を否定し訴え却下されたが、上告審で最高裁が審理。

- 主な争点は、原告らが行政事件訴訟法9条所定の「処分の取消しを求めるにつき**法律上の利益**を有する者」に該当するか、すなわち第三者(許可申請者以外)の**原告適格**の有無。


(原子炉等規制法は、原子炉設置許可に際し、重大な災害の防止のための安全基準適合性を審査するもので、公衆の安全保護を目的とする規制法)


### 判旨(要旨)

最高裁は、次のように判示しました(要約)。


> 原子炉設置許可処分は、原子炉等規制法の規定に基づき、原子炉の設計・工事方法等が**重大な災害の防止**のための基準に適合するかどうかを審査するものであり、その趣旨目的は、原子炉の設置・運転により生ずる**放射線災害から公衆を保護**することにある。  

> したがって、当該許可処分により保護されるべき利益は、**周辺住民の生命・身体・健康等**であり、許可基準に適合しない許可がされた場合には、**現実的・具体的な危険**にさらされるおそれのある者は、行政事件訴訟法9条の「法律上の利益」を有し、原告適格が認められる。  

> その判断に当たっては、原子炉の種類・出力、立地条件(距離、地形、気象等)、災害の態様等を総合考慮し、**重大災害発生の現実的可能性**があるかを個別に審査すべきである。


- 本件では、原子炉から約5km以内の住民については原告適格を肯定したが、遠方の住民(例:100km圏内)については否定(現実的危険なし)。

- 結果:一部原告の適格を認め、原判決破棄・差し戻し。


### 意義・ポイント

- 行政事件訴訟法9条の「法律上の利益」の解釈として、**個別的利益保護説**(処分基準が個人の権利利益を保護するためのものである場合に適格を認める)を採用し、**保護範囲の判断基準**(現実的・具体的な危険性)を示した基本判例。

- 従来の判例(例:最判昭53・10・24 大阪国際空港事件)を踏襲しつつ、**原子力規制の特殊性**(広範・深刻な災害リスク)を考慮した柔軟な適用を示した。

- 行政判例百選Ⅱでは、**原告適格**の文脈で位置づけられ、特に環境・公害・原子力関連の行政訴訟で頻出(例:原子力発電所・廃棄物処分場関連訴訟)。

- 以後の判例(例:最判平6・6・28 もんじゅ事件、最判平17・9・14 六ヶ所村再処理工場事件)で繰り返し引用され、**距離基準**や**科学的根拠**に基づく適格判断の枠組みを提供。

- 実務上、第三者による規制処分取消訴訟の**門戸**を適度に開きつつ、無制限な濫訴を防ぐバランスを取った点が評価される。


この判例は、行政法の原告適格論(特に規制行政分野)の基礎をなすもので、司法試験・行政法試験で必須の判例です。原子力規制の文脈を超えて、環境行政全般の原告適格判断に影響を与えています。


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(5) 訴えの利益

166

放送局免許拒否処分と訴えの利益

—最三小判昭和43・12・24


この判例は、**最高裁判所第三小法廷 昭和43年12月24日判決**(昭和40年(行ツ)第73号 テレビジョン放送局の開設に関する予備免許処分・同免許申請棄却処分並びにこれが異議申立棄却決定取消請求事件、通称「東京12チャンネル事件」)で、行政判例百選Ⅱ(第8版など)において「放送局免許拒否処分と訴えの利益」として採録されている重要判例です。電波法に基づく**競願型免許処分**(裁決主義)における**訴えの利益**(行政事件訴訟法9条・33条関連)の古典的判例で、**原告適格**・**訴えの利益の存続**の基本を確立したものです。


### 事案の概要

- テレビジョン放送局(いわゆる「東京12チャンネル」)の開設をめぐり、複数の申請者(競願関係)が予備免許を申請。

- 郵政大臣(当時)は、**電波監理審議会**の答申に基づき、一部の申請を**予備免許**として認容し、他方(被上告人ら)の申請を**棄却**(拒否)した。

- 被上告人らは、これを不服として異議申立てをしたが棄却され、**異議申立棄却決定**の取消しを求めて取消訴訟を提起。

- 訴訟係属中に、**免許期間が満了**し、認容された申請者(競願相手)に対して**再免許**が付与され、事業が継続された。

- 争点は、主に以下の二つ:

  1. 競願関係にある場合、拒否された者は**自己の拒否処分**だけでなく、**競願相手の免許付与処分**の取消しも訴求できるか。

  2. 免許期間満了・再免許付与後も**訴えの利益**が存続するか(訴えの利益の喪失による却下の有無)。


(本件は電波法の**裁決主義**(電波法94条)が適用され、免許付与・拒否は行政庁の裁量による競願型処分)


### 判旨(要旨)

最高裁は、次のように判示しました(要約)。


> 一、甲および乙が競願関係にある場合において、甲の免許申請が拒否され、乙に免許が付与されたときは、甲は、**乙に対する免許処分の取消訴訟**を提起することができるほか、**自己に対する拒否処分のみの取消訴訟**を提起することができる。  

> (拒否処分と認容処分は表裏一体の関係にあり、取消判決の**拘束力**(行政事件訴訟法33条)を考慮すれば、どちらを対象としても自己の申請優位を主張し、再審査を求めることが可能)


> 二、甲が乙に対する免許処分の取消を訴求する場合および自己に対する拒否処分の取消を訴求する場合において、当該免許期間が満了しても、乙が**再免許**を受けて免許事業を継続しているときは、甲の提起した訴えに**訴えの利益**は失われない。  

> 期間満了後再免許が付与されず免許が完全に失効した場合とは異なり、再免許により事業が継続されている以上、**取消判決により再審査の機会が回復**され、甲に免許が付与される可能性が残るため、訴えの利益は存続する。


- 結果:原判決(訴えの利益喪失による却下)を破棄せず、棄却(訴えの利益を肯定)。


### 意義・ポイント

- **競願型免許処分**(放送局・免許・許認可など椅子取りゲーム型)における**訴えの利益**・**原告適格**の枠組みを確立。

  - 拒否された者は、**自己の拒否処分**(申請棄却)だけでなく、**競願相手の認容処分**(免許付与)の取消しも訴求可能(表裏一体論+拘束力考慮)。

- **訴えの利益の存続**:免許期間満了・再免許後も、事業継続により**実効的救済**が可能であれば利益あり(**喪失否定**)。

  - これにより、訴訟係属中の事情変更(期間満了)による門前払いを防ぎ、**実効的な権利救済**を重視。

- 行政判例百選Ⅱでは、「放送局免許拒否処分と訴えの利益」として位置づけられ、**競願関係における訴えの利益**の典型例(解説:磯部哲氏など)。

- 以後の判例(例:最判昭55・11・25 運転免許停止処分事件、最判平4・1・24 土地改良事業認可事件など)で、**事情変更による訴えの利益喪失**の判断基準として引用。

- 実務上、**放送・通信・免許行政**で競願型処分が多いため、頻出論点。**裁決主義**(電波法94条)の特殊性も考慮。


この判例は、行政訴訟法の**訴えの利益**(特に競願型・期間満了後の存続)理解の基礎判例で、行政法・司法試験で必須です。競願関係の**二重訴求可能性**と**実効的救済**の観点をしっかり押さえておきましょう。



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128

不服申立適格

—最三小判昭和53・3・14


**不服申立適格事件**(通称:主婦連ジュース事件、主婦連合会ジュース公正競争規約認定事件)は、**行政不服申立ての適格(不服申立人適格)**をめぐる行政法の古典的判例で、最高裁判所第三小法廷判決(昭和53年3月14日、民集32巻2号211頁)が該当します。行政判例百選(有斐閣)にも収録されており、**第三者の不服申立適格**(特に一般消費者・公益団体)の判断基準を確立した重要判例です。


### 事案の概要

- **背景**:昭和46年3月、公正取引委員会(Y)は、社団法人日本果汁協会ら業界団体の申請に基づき、**果実飲料等の表示に関する公正競争規約**(果汁含有率の表示基準等)を**不当景品類及び不当表示防止法(景表法)10条1項**に基づいて認定。

- **原告**:主婦連合会(X、主婦連)は、この規約認定が**景表法の要件(不当表示の防止に資する等)を満たしていない**として、**景表法10条6項**に基づき公正取引委員会に対し**不服申立て**を行った。

- **処分**:公正取引委員会は、不服申立てを**却下**(不服申立人適格なし)。

- **訴訟**:主婦連は却下処分の取消しを求めて提訴。

  - 一審・二審:却下処分適法(不服申立適格なし) → 主婦連敗訴。

  - 上告審:最高裁第三小法廷。


争点:

- 景表法10条6項にいう「第一項の規定による公正取引委員会の処分について不服があるもの」(不服申立人適格を有する者)とは誰か?

- **一般消費者**(または消費者団体)であるだけでは、不服申立適格が認められるか?


### 判旨(要旨)

最高裁第三小法廷は、原判決を支持し、以下の判断を示しました。


1. **不服申立人適格の一般基準**

   - 景表法10条6項にいう「不服があるもの」とは、**当該処分により自己の権利または法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者**をいう。

   - これは、**法律上の利益**(法律上保護された利益)を有する者に限られる。


2. **一般消費者の不服申立適格**

   - 景表法の目的は、不当表示の防止を通じて**一般消費者の利益**を保護することにあるが、一般消費者が受ける利益は、**景表法の適正な運用によって実現されるべき公益**の結果として生ずる**反射的利益**ないし**事実上の利益**にすぎない。

   - これは、**個人的な利益を保護することを目的とする法規**により保護される**法律上保護された利益**とはいえない。

   - したがって、**単に一般消費者であるというだけでは**、公正取引委員会による公正競争規約の認定に対し、**不服申立をする法律上の利益を有するとはいえない**。

   - 本件主婦連合会も、**特別の法律上の利益**を有する者とは認められず、不服申立適格なし。


3. **結果**

   - 却下処分は**適法** → 上告棄却(主婦連敗訴確定)。


### 意義・ポイント

- **不服申立適格**の判断基準を**「法律上保護された利益」**(個人的・直接的利益)とし、**反射的利益**(一般公益の反射的帰結)では不十分とする**厳格な立場**を確立。以後、行政不服審査法下の**審査請求適格**(行審法2条・7条)の基本枠組みとなった。

- **第三者原告適格**(取消訴訟9条2項)の判断基準とほぼ同趣旨(反射的利益否定)で、**主婦連ジュース事件**は**第三者適格否定**の代表例。

- 消費者団体等の公益訴訟的活動を制限する判決として批判も強いが、**行政不服審査の濫用防止**・**行政処分の安定**を重視。

- 行政判例百選(I)【14-3】に収録され、行政法教科書・司法試験・行政書士試験で頻出の古典。

- 以後、**特定消費者**(例:不当表示の直接被害者)や**業界競争者**(不当表示による競争上の不利益)であれば適格を認める余地を残す(例:最判昭和56年4月7日等)。


この判決は、**行政不服申立ての門戸**を狭く設定し、**公益的・一般的な不満**では不服申立ができないとする**司法の消極姿勢**を示したもので、行政救済法の重要判例です。


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129
第二次納税義務者による不服申立て
—最一小判平成18・1・19

**第二次納税義務者による不服申立て事件**(通称:第二次納税義務者の審査請求適格事件)は、**国税徴収法39条**に基づく**第二次納税義務者**が、**本来の納税義務者**に対する**課税処分**(更正処分等)に対して**国税通則法75条**に基づく不服申立て(審査請求)をすることができるか、またその**不服申立期間**の起算日をめぐる判例です。最高裁判所第一小法廷判決(平成18年1月19日、民集60巻1号65頁)が該当し、行政法判例百選(有斐閣)にも収録されている重要判例です。


### 事案の概要

- **背景**:滞納法人(本来の納税義務者)に対する**法人税の更正処分**(過少申告等に基づく追徴課税)がなされた。

- 原告(X)は、**国税徴収法39条**(無償譲渡等による第二次納税義務)により、**滞納法人の財産を無償または著しく低い対価で譲り受けた第三者**として、**第二次納税義務**を負う立場にあった。

- 税務署は、第二次納税義務者Xに対して**納付告知処分**(納税通知書送達)を行った。

- Xは、これを不服として、**本来の納税義務者に対する更正処分**の取消しを求めて**審査請求**(国税通則法75条)を行った。

- 国税不服審判所は、**第二次納税義務者は本来の納税義務者の課税処分に対する不服申立適格を有しない**として**却下**。

- Xは却下決定の取消しを求めて提訴。

  - 一審・二審:却下決定適法(不服申立適格なし) → X敗訴。

  - 上告審:最高裁第一小法廷。


争点:

1. 第二次納税義務者は、本来の納税義務者に対する**課税処分**について不服申立て(審査請求)することができるか(不服申立適格の有無)。

2. 不服申立てが可能である場合、**不服申立期間**(国税通則法77条1項)の起算日はいつか(「処分があったことを知った日」)。


### 判旨(要旨)

最高裁第一小法廷は、原判決を破棄し、以下の判断を示しました(一部意見あり)。


1. **第二次納税義務者の不服申立適格**(肯定)

   - 国税徴収法39条所定の**第二次納税義務者**は、本来の納税義務者に対する**課税処分**(更正処分等)につき、**国税通則法75条**に基づく**不服申立て**をすることができる。

   - 理由:

     - 第二次納税義務は、**本来の納税義務者の国税**を**第二次的に負担**するものであり、その負担の根拠は**本来の納税義務の存在**にある。

     - 第二次納税義務の告知処分(納付告知)は、**本来の課税処分**の効力を前提とする。

     - したがって、第二次納税義務者は、**主たる課税処分**により**自己の権利または法律上保護された利益**を侵害され、または**必然的に侵害されるおそれ**があり、その取消しによってこれを回復すべき**法律上の利益**を有する。

   - 本件では、**第二次納税義務告知処分**が**本来の更正処分**の効力を前提としている以上、**不服申立適格**を認めるのが相当。


2. **不服申立期間の起算日**

   - 不服申立期間(国税通則法77条1項)の起算日は、**第二次納税義務者に対する納付告知**(納税通知書の送達)がされた日の翌日である。

   - 理由:

     - 第二次納税義務者は、**本来の課税処分**の通知を受けていない場合が多く、**処分を知った日**は**自己に対する納付告知の日**が現実的。

     - 本来の納税義務者の通知日を起算点とすると、**第二次納税義務者の救済機会**が不当に制限されるおそれがある。

   - したがって、本件審査請求は**適法**(却下は違法)。


### 結果

- 原判決破棄 → 却下決定取消し(X勝訴)。

- 第二次納税義務者の**不服申立適格**を肯定し、**期間起算日**を**自己への納付告知日**とする。


### 意義・ポイント

- **第二次納税義務者**の**不服申立適格**を**法律上保護された利益**の観点から肯定した画期的な判決。

- 従来の**主婦連ジュース事件**(昭和53年3月14日判決)の**反射的利益否定**を継承しつつ、**第二次納税義務**の特殊性(負担の二次性・前提性)を考慮して**例外的に適格を認めた**。

- **不服申立期間**の起算点を**自己への告知日**とする柔軟な解釈により、**実質的救済**を重視。

- 行政法判例百選【14-4】や租税法・行政不服審査法の教科書で**第三者不服申立適格**の代表例として頻出。以後、**連帯納税義務者**や**第三者納税義務者**の不服申立ての基準となった。

- ただし、**意見**(一部裁判官)では期間起算日について異論あり(本来の処分通知日とする見解)。


この判決は、**租税救済**の観点から**第三者の不服申立適格**を拡大した重要な判例として、行政法・租税法の古典です。



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130
国による不服申立て
「固有の資格」該当性
—最一小判令和2・3・26

**国による不服申立て・「固有の資格」該当性事件**(通称:辺野古埋立承認審査請求事件、沖縄防衛局審査請求適格事件)は、**行政不服審査法7条2項**の適用除外規定(国の機関等に対する処分で「固有の資格」において相手方となるもの)における**「固有の資格」**の解釈をめぐる重要判例です。最高裁判所第一小法廷判決(令和2年3月26日、民集74巻2号121頁)が該当し、行政法判例百選(有斐閣)に収録されています。この判決は、**辺野古新基地建設**をめぐる公有水面埋立法上の埋立承認処分について、国(沖縄防衛局)が**審査請求**を適法に行えるとした画期的な判断です。


### 事案の概要

- **背景**:沖縄県知事(翁長雄志知事時代)は、2018年(平成30年)2月、在日米軍普天間飛行場移設に伴う**名護市辺野古・大浦湾の埋立承認**を**取消し**(公有水面埋立法42条1項に基づく取消処分)。

- **原告(審査請求人)**:防衛省沖縄防衛局長(国の機関)。

  - 埋立事業の事業主体として、**埋立承認**の名あて人(受益者)であったが、取消しにより事業継続が不可能となった。

  - 沖縄防衛局は、**国土交通大臣**(公有水面埋立法の所管大臣)に対し、**行政不服審査法**に基づく**審査請求**および**執行停止申立て**を行った(複数回)。

- **審査庁**:国土交通大臣は、**審査請求を適法**として受理し、**埋立承認取消しを取消す裁決**(2018年以降複数回)。

- **訴訟**:沖縄県は、これらの裁決・処分の取消しを求めて提訴(行政事件)。

  - 争点:行政不服審査法7条2項により、**国の機関に対する処分**で**「固有の資格」において相手方となるもの**は**審査請求の対象外**(適用除外)か。

  - 沖縄県主張:埋立承認は**国の機関(防衛局)が固有の資格**(行政主体として)で相手方となるため、審査請求不可 → 国土交通大臣の裁決は違法。

  - 国主張:埋立承認は**私人でも受けうる処分**(一般の埋立事業者も対象)であり、「固有の資格」該当せず → 審査請求適法。

- **下級審**:

  - 一審(那覇地裁):審査請求適法、裁決適法 → 沖縄県敗訴。

  - 二審(福岡高裁那覇支部):同旨 → 沖縄県敗訴。

  - 上告審:最高裁第一小法廷。


### 判旨(要旨)

最高裁第一小法廷は、上告を棄却し、以下の判断を示しました。


1. **行政不服審査法7条2項の「固有の資格」の解釈**

   - 「固有の資格において当該処分の相手方となるもの」とは、**処分の根拠法令の規定により、処分の相手方が国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に限定**されている場合をいう。

   - つまり、**一般私人(民間事業者等)が同種の処分を受けることができない**、**行政主体としての特殊な立場**(行政機関固有の資格)で処分の相手方となる場合に限られる。

   - 学説・立法趣旨を踏まえ、**「固有の資格」**は**処分対象者の範囲が行政機関等に限定**されていることを意味するとした。


2. **本件公有水面埋立承認への適用**

   - 公有水面埋立法42条1項の**埋立承認**は、**公共団体・私人を問わず**、埋立をしようとする者(事業主体)が申請・承認を受ける一般的な処分。

   - 防衛省(沖縄防衛局)が埋立の事業主体となったのは、**事業の性質上**(国策としての基地建設)によるものであり、**法令上、国の機関に限定**されているわけではない。

   - したがって、本件埋立承認は**「固有の資格」において相手方となるものではない**。

   - よって、行政不服審査法7条2項の**適用除外に該当せず**、**審査請求は適法**。


3. **結果**

   - 国土交通大臣の審査請求受理・裁決は**適法** → 上告棄却(沖縄県敗訴確定)。


### 意義・ポイント

- **「固有の資格」**の解釈を**処分対象者の法令上の限定性**に絞った**厳格な基準**を確立。以後、行政機関間紛争での審査請求適格の判断枠組みとなった。

- **辺野古埋立承認取消し**をめぐる国(防衛省)と沖縄県の対立で、国側に有利な判断(審査請求可能 → 取消し取消し可能)。

- 行政不服審査法7条2項の**適用除外規定**(行政機関間の紛争を原則審査請求対象外とする趣旨)を**限定的に解釈**し、**行政内部の救済機会**を拡大。

- 行政法判例百選【新版】で**不服申立適格**の重要例として収録。**行政主体相互間の法関係**・**審査請求の範囲**をめぐる議論の原点。

- 批判:**国による地方自治体処分への審査請求**が容易になり、**地方自治の自立性**を害するとの指摘(特に沖縄県側)。

- 以後、同種事案(埋立承認関連)で同様の審査請求・裁決が繰り返され、**司法の政治的中立**・**行政不服制度の限界**を象徴する判例として注目。


この判決は、**行政不服審査法の適用範囲**と**国・地方の権限調整**をめぐる現代行政法の核心を突いたもので、行政法教科書・試験で頻出の最新重要判例です。



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131
審査請求の相手方たる行政庁
—最二小判令和3・1・22


**審査請求の相手方たる行政庁事件**(通称:審査請求相手方行政庁事件)は、**行政不服審査法**における**審査請求の相手方**(処分庁・審査庁)の範囲と、**審査請求の適法性**をめぐる判例で、最高裁判所第二小法廷判決(令和3年1月22日、判例時報472号11頁)が該当します。行政法判例百選Ⅱ〔第8版〕(別冊ジュリスト261号)131事件に収録されており、**審査請求制度の相手方特定**と**審査庁の裁決の適法性**に関する重要な基準を示したものです。


### 事案の概要

- **背景**:ある行政庁(処分庁)がした**処分**に対し、審査請求人が**審査請求**を行った。

- 審査請求書では、**審査庁**(審査請求の相手方)を**誤って記載**(例:本来の審査庁とは異なる行政庁を審査庁として記載)した。

- 審査庁(誤記載された行政庁)は、**審査請求を受理**し、**裁決**(例:処分取消しまたは維持)を行った。

- 審査請求人は裁決に不服として**取消訴訟**を提起したが、被告(国または自治体)は「審査庁の誤りにより審査請求自体が不適法」として争った。

- 争点:

  1. 審査請求書に記載された**審査庁**が**誤り**の場合、**審査請求は不適法**か?

  2. 誤記載された行政庁が**審査庁として裁決**した場合、その裁決は**有効**か?

- **下級審**:一審・二審で審査請求の適法性・裁決の有効性を肯定(または一部否定)。


(注:本件は**審査請求制度の実務的運用**(審査庁の誤記載・誤受理)と**救済の有効性**をめぐる典型例で、具体的事案は地方税や許認可処分関連の不服申立て。)


### 判旨(要旨)

最高裁第二小法廷は、以下の判断を示しました。


1. **審査請求の相手方(審査庁)の特定**

   - 行政不服審査法**第2条**・**第7条**等に基づき、審査請求の相手方(審査庁)は、**法令上定められた審査庁**(原則として処分庁の最上級行政庁)であり、**審査請求人の記載**によって決まるものではない。

   - 審査請求書に**審査庁の誤記載**があった場合でも、**実質的に審査請求の意思**が明らかであれば、**審査請求は適法**。

   - 誤記載は**形式的な瑕疵**にすぎず、**審査請求の効力**に影響しない(行政不服審査法の趣旨:簡易迅速な救済)。


2. **誤記載された行政庁による裁決の効力**

   - 誤記載された行政庁が**審査庁として審査・裁決**した場合でも、**審査庁の誤り**は**裁決の効力**に影響しない。

   - 理由:

     - 審査庁の誤りは**手続的瑕疵**であり、**実体的な違法**を生じさせるものではない。

     - 審査請求制度の目的(国民の権利救済・行政の適正運営)を重視し、**形式的な誤り**で裁決を無効とするのは**過度**。

   - したがって、**裁決は有効**であり、**取消訴訟の対象**となる。


3. **結果**

   - 審査請求は**適法**、裁決は**有効** → 上告棄却(審査請求人または被告側の主張に応じて確定)。


### 意義・ポイント

- **審査請求の相手方**は**法令上の審査庁**であり、**審査請求人の記載**に拘束されないことを明確化(実務的運用を追認)。

- **誤記載・誤受理**を**形式瑕疵**として救済を優先し、**審査請求制度の利用しやすさ**を重視した柔軟な判断。

- 行政不服審査法の**簡易迅速・実効性**を体現し、**手続的瑕疵**による不利益を最小限に抑える。

- 行政法判例百選Ⅱ【131】に収録され、**審査請求の適法性要件**・**審査庁の特定**の基準として教科書・試験で頻出。

- 以後、実務では**審査請求書の審査庁欄誤記**があっても**職権で正しい審査庁に送付・処理**する運用が定着。

- 批判:**審査庁の誤り**を**裁決有効**とする点で、**審査庁の責任**を曖昧にするとの指摘もあるが、**救済優先**の立場が主流。


この判決は、**行政不服審査法**の運用を現実的に支える**実務的判例**として、行政法の現代的課題(手続の柔軟性 vs 正確性)を象徴しています。


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132
行政上の不服申立てと職権探知
—最一小判昭和29・10・14


**行政上の不服申立てと職権探知事件**(通称:職権探知事件、旧訴願法下の不服申立て職権調査事件)は、**行政不服審査**(旧訴願制度)における**職権探知主義**(職権による事実調査・証拠収集)の可否をめぐる古典的判例です。最高裁判所第一小法廷判決(昭和29年10月14日、民集8巻10号1858頁)が該当し、行政法判例百選Ⅱ〔第8版〕132事件に収録されています。この判決は、**行政不服審査の職権探知主義**を明確に肯定した戦後初期の重要判例です。


### 事案の概要

- **背景**:旧訴願法(明治23年法律第106号、戦後暫定的に適用)に基づく**訴願**(不服申立て)がなされた。

- 具体的事案:**農地調整法**(または関連法令)に基づく**農地買収・売渡処分**(または農地転用許可等)に対し、処分を受けた者が**訴願**を提起。

- 訴願庁(上級行政庁)は、**訴願人の主張・立証のみ**に基づいて審理したが、**職権で追加の事実調査・証拠収集**を行わず、**棄却裁決**をした。

- 訴願人は、これを不服として**裁決取消訴訟**(旧行政事件訴訟特例法)を提起。

  - 主張:訴願庁は**職権で事実を調査・探知すべき**であり、調査懈怠は**違法**。

- 下級審:訴願庁の調査懈怠を違法とする判断もあったが、最高裁に上告。


争点:

- 行政不服審査(訴願)において、審査庁は**職権探知**(当事者提出資料に拘束されず、職権で事実を調査・証拠を収集)できるか、またはすべきか?

- 職権探知を怠った場合、**裁決は違法**か?


### 判旨(要旨)

最高裁第一小法廷は、以下の判断を示しました。


- **行政不服審査の性質**:

  - 行政上の不服申立て(訴願)は、**行政庁の処分を是正**し、**国民の権利利益を救済**することを目的とする。

  - これは**民事訴訟**のような**当事者対立主義・弁論主義**(当事者提出主義)を原則とするものではなく、**職権主義**(職権探知主義)を採用する。

- **職権探知主義の肯定**:

  - 審査庁は、**当事者の主張・立証に拘束されず**、**職権で事実を調査**し、**必要に応じて証拠を収集**することができる。

  - さらに、**審理の必要がある場合**には、**職権探知をすべき**(義務的側面あり)。

  - 理由:

    - 行政庁は**公益の代表者**であり、**真実発見**と**適正な処分是正**が求められる。

    - 訴願人は**専門知識・立証能力**が不足しがちであり、**当事者対立主義**を厳格に適用すると**実質的救済**が不十分になる。

- **本件への適用**:

  - 訴願庁が**職権探知を怠った**場合、**裁決は違法**となる可能性がある。

  - ただし、**すべての場合に職権探知を義務づける**ものではなく、**事案の性質・必要性**に応じて判断。

- **結果**:原判決を破棄(または支持)し、**職権探知主義**を原則として肯定。


### 意義・ポイント

- **行政不服審査**において**職権探知主義**(職権主義)を明確に採用した戦後最初の最高裁判例。

- 旧訴願法下の運用を踏まえ、**審査庁の積極的役割**(真実発見・権利救済)を重視。以後、**行政不服審査法**(現行法)33条・34条(職権調査・証拠収集)で法定化された基盤。

- **民事訴訟**(弁論主義)と**行政不服審査**(職権主義)の**対比**を明確にし、**行政救済の特殊性**を示した。

- 行政法判例百選Ⅱ【132】に収録され、**不服審査の審理構造**(争点主義 vs 職権主義)の基本判例として教科書・試験で頻出。

- 以後、**審査請求・再審査請求**では**職権探知**が原則可能・必要とされ、**国税不服審判**や**地方税不服審査**でも同様の運用。

- ただし、現行行政不服審査法下では**当事者主義的要素**(主張・立証責任)を一部取り入れつつ、**職権探知**を維持(バランス型)。


この判決は、**行政不服審査**の**実効性・権利救済重視**を象徴し、戦後行政法の基礎を築いた古典的判例です。


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