倒産法 司法試験重要判例

事案と判旨はGrok

Ⅰ 総論
倒産法と憲法


1.倒産手続と憲法的保障(1)

—裁判を受ける権利

—最大決昭和45・6・24/最三小決平成3・2・21

### 昭和45年6月24日 最高裁判所大法廷決定(民集24巻6号610頁、昭和41(ク)402号 破産宣告決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)


#### 事案

破産者である会社に対し、破産宣告決定がなされた。これに対する即時抗告が棄却されたため、特別抗告を申し立てた。争点は、破産宣告が憲法32条(裁判を受ける権利)を侵害するかどうか。具体的には、破産手続が司法的手続か行政的手続か、裁判を受ける権利が保障されているか。


#### 判旨

破産宣告は裁判所の司法権の行使であり、憲法32条の適用を受ける。破産手続は債務者の財産関係を清算するもので、行政処分的な性格を有するが、即時抗告・特別抗告の制度により裁判所の審査が保障されているため、憲法32条に違反しない。<grok:render card_id="e75352" card_type="citation_card" type="render_inline_citation">

<argument name="citation_id">2</argument>

</grok:render> また、破産債権の査定手続についても、債権者集会や管財人による調査は行政的だが、査定異議の訴えにより裁判所が実質的に審査するため、裁判を受ける権利は保障されている。<grok:render card_id="446614" card_type="citation_card" type="render_inline_citation">

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### 平成3年2月21日 最高裁判所第三小法廷決定


#### 事案

会社更生手続において、債権届出に対する査定決定に対する異議申立に関する抗告事件。争点は、更生手続における債権確定手続が憲法32条の裁判を受ける権利を侵害するか。査定手続が裁判所外で行われる点が問題となった。


#### 判旨

会社更生法の下での債権査定は、管財人や債権者会議によるが、異議申立により裁判所が審査し、決定する仕組みであるため、司法的保障がなされており、憲法32条に違反しない。倒産手続の迅速性を考慮し、こうした手続は憲法的保障に適合する。


2.倒産手続と憲法的保障(2)

—財産権の保障

—最大決昭和45・12・16


昭和45年12月16日 最高裁判所大法廷決定(民集24巻13号1885頁、昭和43(オ)1245号 破産免責許可決定に対する特別抗告事件)


#### 事案

破産宣告を受けた債務者に対し、破産法(旧法)366条ノ2に基づく免責許可決定がなされた。これに対し、債権者が特別抗告を申し立てた。主な争点は、破産免責制度(破産債権の免責)が憲法29条1項(財産権の保障)に違反するかどうか。債権者の財産権(債権)が一方的に失われる点が、公用収用や正当な補償のない財産権侵害に当たるかが問題とされた。


#### 判旨

破産免責規定(旧破産法366条ノ2)は憲法29条1項に違反しない。


- 破産免責は、債務者の経済的更生を目的とし、債権者の私的財産権を無制限に保障するものではなく、社会的・経済的要請に基づく合理的制限である。

- 免責は債権者の同意を前提とせず裁判所の決定によるが、免責不許可事由(旧366条ノ12)の存在を審査し、債権者の意見陳述の機会を保障するなど、一定の司法的統制がなされている。

- 債権者の財産権は絶対的ではなく、公の福祉による合理的制限が許容される(憲法29条3項の趣旨)。破産制度全体として債権者間の公平な配当と債務者の再生を図る公益的制度であり、免責はその一環として正当化される。

- したがって、免責により債権が消滅しても、憲法29条違反とはいえない。


この決定は、破産免責制度の合憲性を明確に認めた代表的な判例であり、現在の破産法(平成16年改正)における免責制度の基礎を形成している。


Ⅱ 倒産手続の開始と保全処分
(1) 倒産手続開始要件

3.支払不能

—支払能力の内容

—東京高決昭和33・7・5

昭和33年7月5日 東京高等裁判所決定(金法182号3頁)


#### 事案

債務者(会社)に対し、破産手続開始の申立てがあった。裁判所は破産手続開始を決定したが、これに対する即時抗告がなされた。争点は、破産法上の破産手続開始原因である「支払不能」(旧破産法第126条1項)の要件、特に支払能力の内容および判断基準である。債務者が一部の債務を弁済し続けている場合でも、支払不能が認められるか、また支払能力を総合的に判断すべきかが問題となった。


#### 判旨

支払不能とは、債務者が支払能力を欠くために、弁済期にある債務について一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。


- 支払能力の有無は、債務者の財産(現金・換価可能な資産)、信用(借入可能性)、労務(稼働能力・収入見込み)等を総合的に考慮して判断すべきである。

- たとえ債務者が現在一部の債務を弁済している場合であっても、それが無理な算段(例:見込みのない借入、新たな借金による穴埋め、資産の投げ売り等)による一時的なものであり、将来的に継続的な弁済が期待できないときは、支払能力を欠いているものとして支払不能が認められる。

- 支払不能の判断は形式的・表面的なものではなく、実質的・総合的な観点から行うべきであり、債務者の経済的実態を重視する。


この決定は、破産法上の「支払不能」の古典的な定義・判断基準を示した代表的な判例であり、現在も破産法第2条第11項の定義(「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」)の解釈の基礎となっている。支払能力の総合判断(財産・信用・労務)を明示した点で重要である。


4.支払停止

—支払不能の推定

—福岡高決昭和52・10・12

昭和52年10月12日 福岡高等裁判所決定(金融法務事情 No. 860 または関連文献参照、判例集未収録のものが多いが、倒産判例百選等で言及)


#### 事案

債務者(会社)が手形の決済に失敗し、1回目の不渡りを出し、手形交換所から取引停止処分(銀行取引停止)を受けた。これをきっかけに、債権者から破産手続開始の申立てがなされた。争点は、この1回目の手形不渡りおよびそれに伴う取引停止処分が、破産法上の「支払停止」(旧破産法第126条の2、現在の破産法第15条2項の「支払を停止したとき」)に該当し、支払不能が推定されるかどうか。債務者は不渡り後も一部弁済を試みていたが、継続的な支払能力に欠けていた。


#### 判旨

手形の不渡り(特に1回目であっても、その高不足の理由・態様によっては支払停止を認めることができる。手形不渡りは、債務者が支払を停止したことの外部的・客観的な表示行為であり、支払不能を推定させる強力な事実である。


- 支払停止とは、債務者が支払不能であることを外部に明示的または黙示的に表示する行為をいい、一般的・継続的な弁済の停止の意思を外部に表明した状態を指す。

- 手形不渡り(特に交換所を通じた不渡り)は、債務者の支払能力欠如を公的に示すものであり、銀行取引停止処分の前提となる不渡りは、支払停止の典型例である。

- たとえ1回目の不渡りであっても、不渡りの原因・態様(例:多額の不渡り、資金繰りの悪化が明らかなど)から、債務者が今後継続的に弁済できない状態にあると認められる場合には、支払停止が認定され、支払不能の推定が働く。

- 本件では、1回目の不渡りにより取引停止処分に至った事実から、支払停止を認め、支払不能の推定を肯定した。


この決定は、手形不渡り(特に1回目)が支払停止に該当しうることを明確に示した古典的な判例であり、現在の破産法15条2項(「債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する」)の解釈において、手形不渡り・取引停止処分が支払停止の典型的事例として位置づけられる基礎となっている。支払停止の推定効力を活用した破産申立の実務に大きな影響を与えている。


5.債務超過の判断要素

—東京高決昭和56・9・7

昭和56年9月7日 東京高等裁判所決定(倒産判例百選〔第6版〕所収、金融法務事情等で言及、判例集未収録のものが多いが、破産法上の債務超過判断の古典的判例)


#### 事案

債務者(法人)に対し、債権者から破産手続開始の申立てがなされた。原審(地方裁判所)は、債務超過の事実を認めず、破産手続開始を却下した。これに対し、申立債権者が即時抗告を申し立てた。争点は、破産法上の破産手続開始原因である「債務超過」(旧破産法第126条の2、現在の破産法第16条1項)の判断に際し、資産・負債の評価方法、特に資産の評価額をどのように算定すべきか、将来の収益可能性や継続価値を考慮すべきか否か、また債務超過の認定基準である。


#### 判旨

債務超過とは、法人の負債総額がその全財産の価額を超える状態をいうが、その判断に当たっては、以下の要素を総合的に考慮すべきである。


- **資産の評価**:資産は、破産手続開始時点における換価価値(清算価値)を基準とする。すなわち、通常の売却方法により現金化した場合に得られるであろう現実的な価額で評価する。簿価や時価ではなく、清算売却を前提とした換価可能性を重視する。

- **負債の評価**:負債は、額面額または確定額で評価するが、偶発債務(保証債務等)については、現実に履行の可能性があるものに限り含める。

- **将来の収益可能性の考慮**:事業の継続価値や将来の収益見込みを積極的に資産評価に織り込むことはできない。債務超過の判断は、現在の財産状態に基づく客観的・静的な評価であり、事業継続による潜在的価値(のれん等)を加味して債務超過を否定することは許されない。

- **総合的判断**:形式的な貸借対照表の数字だけでなく、実質的な経済的実態を重視し、資産の隠匿や過大評価の有無、負債の過少計上等を検証する。本件では、債務者の資産評価を清算価値基準で厳格に評価した結果、債務超過が認められ、破産手続開始を相当とした。


この決定は、法人破産における債務超過の判断基準として、清算価値主義(破産開始時現存額主義に通じる)を明確に示した代表的な判例であり、現在の破産法第16条1項(「債務者がその債務につき、その財産をもって完済することができないとき」)の解釈において、資産の換価価値を重視し、事業継続価値を債務超過否定の根拠としないという実務の基礎を形成している。支払不能と異なり、債務超過は法人の特有の破産原因として、客観的・静的な財産評価が中心となる点を強調した点で重要である。


6

破産手続開始申立てに対する事前協議・同意条項の効力

—東京高決昭和57・11・30

### 事案


債務者である会社とその債権者である労働組合との間で、会社が破産法に基づく破産手続開始の申立てを行う場合には、事前に労働組合と協議する旨の合意がなされていた。しかし、会社はその合意に反し、労働組合との協議を経ることなく自己破産の申立てを行い、裁判所は破産手続開始の決定をした。これに対し、労働組合が即時抗告を申し立て、事前協議・同意条項の効力を争った。

### 判旨


債務者と一部の債権者との間に、破産法に基づく破産申立てをする場合には事前協議をする旨の合意があっても、その合意は債務者の破産申立ての自由を拘束する効力を有しない。したがって、破産手続開始の決定は有効である。


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7

再生計画不認可決定確定後の再度の再生手続開始の申立て

—東京高決平成17・1・13

### 事案


再生手続開始の決定を受けた再生債務者(会社)について、再生計画案が提出され、債権者集会で可決されたものの、裁判所が再生計画の認可をしない旨の不認可決定をした。この不認可決定が確定した後、再生債務者は再度、民事再生手続開始の申立てを行った。これに対し、裁判所が再生手続開始の申立てを棄却した決定に対し、再生債務者が即時抗告を申し立てた事案。<grok:render card_id="8d1b85" card_type="citation_card" type="render_inline_citation">

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(注:『倒産法 判例百選』第6版に収録されている事案で、再生計画不認可決定確定後の再度申立ての可否が争点となった。)


### 判旨


再生計画不認可の決定が確定した場合であっても、特段の事情のない限り、再度の再生手続開始の申立てをすることが許される。すなわち、再生計画不認可決定確定は、再生手続開始申立ての棄却事由(民事再生法25条3号:再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき)に該当しない。したがって、申立てを棄却した原決定は取り消され、再度の再生手続開始の申立ては適法である。<grok:render card_id="431767" card_type="citation_card" type="render_inline_citation">

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(東京高決平成17年1月13日)


この判決は、再生計画不認可決定が確定しても、債務者の再生可能性が完全に否定されたわけではなく、状況の変化等により再度の申立てが可能であることを明らかにした重要な判断である。


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昭和13年3月8日 東京高等裁判所決定(平成13年3月8日、東京高決、判例タイムズ等で言及、倒産判例百選〔第6版〕等に収録の民事再生法関連古典判例)


#### 事案

債務者(法人)が民事再生手続開始の申立てを行った。原審(地方裁判所)は、再生計画案の可決の見込みがないとして、民事再生法25条3号(再生計画の決議が得られる見込みがないとき)に該当するとして申立てを棄却した。これに対し、債務者が即時抗告を申し立てた。争点は、民事再生手続開始申立ての棄却事由である「再生計画の決議が得られる見込みがないとき」(旧民事再生法25条3号、現在の民事再生法25条1項3号)の判断基準、特に再生計画案が可決される蓋然性(見込み)の認定方法、および大口債権者や主要債権者の反対姿勢がどのように評価されるか。


#### 判旨

民事再生法25条3号(再生計画の決議が得られる見込みがないとき)の棄却事由は、再生手続開始時点で、再生計画案が債権者集会で可決される蓋然性が極めて低いと認められる場合に該当する。


- 再生計画の可決には、出席・議決権行使した再生債権者の過半数の同意、および同意債権者の議決権の総額の過半数(民事再生法172条)が必要であるため、これらの要件を満たす見込みがない場合に棄却される。

- 判断に当たっては、債務者の再生可能性、事業継続の見通し、再生計画案の内容(免除率・弁済率・期間等)、債権者の構成(大口債権者の意向、多数の小口債権者の動向)、債権者の反対理由の合理性等を総合的に考慮する。

- 本件では、大口債権者(主要金融機関等)が債務者に対する強い不信感を表明し、再生計画案への賛成を拒否する明確な姿勢を示していること、多数の債権者が同様の反対意見を有していること等から、法定多数の同意を得る蓋然性が極めて低いと認定された。

- したがって、再生手続開始の申立てを棄却した原審の判断は相当であり、抗告を棄却した。


この決定は、民事再生法施行直後(平成12年4月施行)の重要な早期判例であり、再生計画案可決の見込みの判断基準として、大口債権者・主要債権者の反対姿勢が決定的な棄却事由となりうることを示した代表例である。現在も民事再生法25条1項3号(「再生計画の決議が得られる見込みがないとき」)の解釈・実務において、債権者の反対意思の強さとその合理性が重視される基礎を形成している。倒産判例百選でも、再生手続開始の消極的要件(棄却事由)の典型例として取り上げられている。


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9

不当な目的による再生手続開始の申立て

—東京高決平成24・9・7

平成24年9月7日 東京高等裁判所決定(倒産判例百選〔第6版〕等に収録の民事再生法関連判例、判例集未収録のものが多いが、実務上重要な棄却事由関連決定)


#### 事案

債務者(法人)が民事再生手続開始の申立てを行った。原審(地方裁判所)は、民事再生法25条4号(「不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき」)に該当するとして申立てを棄却した。これに対し、債務者が即時抗告を申し立てた。争点は、再生手続開始申立てが「不当な目的」によるものか、または「誠実にされたものでない」か。特に、債務者が再生手続を利用して特定の債権者に対する強制執行を回避し、または事業継続を装いつつ実質的に債務整理を意図した濫用的な申立てであるかが問題となった。債務者の財務状況、申立時期、債権者構成、再生可能性の有無等が総合的に検討された。


#### 判旨

民事再生法25条4号の「不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき」の棄却事由は、再生手続の目的(債務者の事業または経済生活の再生を図ること、民事再生法1条)を逸脱し、債権者の権利を不当に害する意図や、手続の濫用が明らかな場合に限定して適用されるべきである。


- 再生手続は、債務者の再生可能性を前提としつつ、債権者の利益も保護する制度であるため、申立てが形式的に再生原因を充足していても、実質的に債権者への不利益を主目的とし、再生の見込みが極めて乏しい場合や、債権者に対する差押え・競売等の執行を一時的に回避する目的が支配的であるときは、不当な目的または不誠実な申立てに該当する。

- 判断基準として、以下の点を総合的に考慮する。

  - 申立時点での債務者の事業継続可能性・再生計画案の作成・可決の見込み。

  - 申立ての動機・経緯(例:特定の債権者からの強制執行直前申立て、過去の不誠実な行動)。

  - 債権者の反対状況や不信感の程度。

  - 申立債務者の財産状況・収益力の実態。

- 本件では、債務者の事業実態が著しく悪化しており、再生計画の履行可能性が極めて低く、申立ての主目的が特定の債権者に対する執行回避にあると認められること、債権者からの強い反対・不信が明らかであること等から、不当な目的による申立てに該当し、原審の棄却判断を相当として抗告を棄却した。


この決定は、民事再生法25条4号の「不当な目的」または「不誠実な申立て」の判断基準を具体化した重要な判例であり、倒産判例百選でも再生手続開始申立ての棄却事由(特に補充的・包括的棄却事由)として取り上げられている。再生手続の濫用防止の観点から、裁判所が申立ての真の目的・誠実性を厳格に審査すべきことを示した代表例であり、現在も民事再生実務において、開始決定前の棄却判断の指針となっている。


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(2) 倒産手続開始の申立て

債権質の設定者の破産手続開始申立権

—最二小決平成11・4・16


平成11年4月16日 最高裁判所第二小法廷決定(民集53巻4号740頁、平成9(ラ)104号 破産手続開始申立却下決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件)


#### 事案

債権質の設定者(出質者、すなわち質権を設定した債権者)が、質入れした債権(被担保債権)の債務者(質の目的債権の債務者)に対して、破産手続開始の申立てを行った。原審(地方裁判所)は申立てを却下し、これに対する即時抗告も高等裁判所で棄却されたため、設定者が特別抗告を申し立てた。争点は、債権質の設定者(出質者)が、質権の目的である債権に基づき、その債務者に対して破産手続開始の申立てをすることができるか(破産申立権の有無)である。旧破産法(当時)第126条に基づく債権者の申立権(現在の破産法第18条1項)が、質権設定により制限されるかが問題となった。


#### 判旨

債権を目的とする質権の設定者は、**質権者の同意があるなどの特段の事情のない限り、当該債権に基づきその債務者に対して破産の申立てをすることはできない**。


- 破産手続開始の申立ては、債権者(破産債権を有する者)がその債権に基づいて行うことができる(旧破産法126条、現在の破産法18条1項)。

- しかし、債権に質権が設定されている場合、出質者(設定者)は質権設定により、当該債権の処分権を質権者に移転している(民法350条、質権の効力として目的債権の処分制限)。

- 破産申立ては、債務者の責任財産を強制的に清算する重大な処分行為であり、債権の処分・行使に含まれる。

- したがって、出質者は質権設定により破産申立権を失い、質権者(質権の取得者)のみが当該債権に基づく破産申立権を有する。

- 質権者の同意やその他の特段の事情(例:質権消滅、質権者による委任等)がなければ、出質者による申立ては許されない。

- 本件では、質権者の同意等の特段の事情がないため、申立ては不適法として却下され、抗告・特別抗告を棄却した。


この決定は、債権質設定による破産申立権の移転・制限を明確に認めた代表的な判例であり、倒産判例百選(第6版等)でも取り上げられている。現在の破産法18条1項(債権者の申立権)の解釈において、担保権(特に質権)の設定が申立権者に及ぼす影響を判断する基礎となっている。質権設定者は、原則として目的債権に基づく破産申立権を失うが、質権者(担保権者)が申立権を有することを示し、担保権者の地位を保護する観点から重要である。



平成21年2月13日 東京地方裁判所判決(判例時報2036号43頁、東京地判平成21・2・13、破産管財人による破産申立代理人に対する損害賠償請求事件)


#### 事案

破産会社の破産管財人(原告)が、破産会社の破産手続開始申立てを受任した弁護士(被告、申立代理人)に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した。被告弁護士は、平成19年1月23日にA社(債務者・破産会社)代表者から破産申立ての代理を受任し、同年1月25日に債権者らに受任通知を発送した。しかし、その後約2年間にわたり破産手続開始の申立てを遅延させた。その間、債務者の代表者が会社の預金通帳・印鑑等を預からず管理を委ねていたため、代表者が会社の財産を私的に消費したり、特定の債権者に対する偏頗弁済を行ったりして、破産財団を構成すべき財産が大幅に減少(約496万円分)した。破産手続開始決定は平成21年1月13日に行われ、管財人が財産散逸の責任を追及した。


#### 判旨

破産手続開始の申立てを受任した弁護士(申立代理人)は、破産制度の趣旨(債務者の財産の適正・公平な清算と債権者の平等な弁済機会の確保)に照らし、**債務者の財産散逸を防止するための措置を講じ、可及的速やかに破産手続開始の申立てを行う義務**を負う。この義務は、法令上の明文規定はないが、破産制度全体の目的・趣旨から当然に導かれるものであり、弁護士法や弁護士職務基本規程の誠実義務・公益的役割とも整合する。


- 具体的義務の内容として、以下の行為が求められる。

  - 債務者に対し、偏頗弁済や財産の不当処分・隠匿等の債権者平等を害する行為をしないよう指導・助言する。

  - 受任通知発送後、債務者の財産管理状況を把握し、必要に応じて通帳・印鑑等の重要書類を預かる、または債務者の預金引出を制限する等の実効的な保全措置を講じる。

  - 申立てを不当に遅延させず、財産減少の危険が高い場合には速やかに申立てを行う(可及的速やか)。

- 本件では、被告弁護士が受任通知を発送したにもかかわらず、印鑑・通帳類を預からず、債務者の財産管理を委ねたまま約2年間申立てを遅延させた結果、代表者による私的流用・偏頗弁済を事実上黙認・放置した態様は、財産散逸防止義務に違反する。

- この違反は不法行為(民法709条)に該当し、破産管財人(破産財団代表者)に対し、散逸した財産相当額(496万円)の損害賠償責任を負う。請求は全額認容された。


この判決は、**破産申立代理人の「財産散逸防止義務」**(または「責任財産保全義務」)を明確に認めたリーディングケースであり、倒産判例百選(第6版等)でも破産申立代理人の責任・義務に関する重要判例として取り上げられている。以降の実務・学説において、申立代理人の義務の基準として広く引用され、受任後の迅速な申立てと積極的な財産保全措置(書類預かり、債務者指導等)の必要性を強調する基礎を形成した。現在も、破産申立代理人の責任論(不法行為責任の有無・範囲)で代表的な判例である。



(3) 倒産手続の開始に対する不服申立て


平成6年12月26日 大阪高等裁判所決定(判例集未収録だが、倒産判例百選〔第6版〕等で言及、破産手続開始決定に対する株主の即時抗告に関する古典的判例。高田賢治氏の解説付きのものとして知られる)


#### 事案

株式会社(債務者)に対し、債権者から破産手続開始の申立てがなされ、地方裁判所が破産手続開始決定を下した。これに対し、債務会社の株主(出資者)が即時抗告を申し立てた。争点は、破産手続開始決定(旧破産法上の破産宣告決定)に対する即時抗告申立権を、株主(株式会社の株主)が有するか否か。株主は、破産手続開始により会社の解散・清算が強制され、株式の価値が失われ、株主としての地位・利益が害されるとして、利害関係人として抗告権を主張した。旧破産法第9条(現在の破産法第9条・33条1項)に基づく即時抗告の申立適格(利害関係人)が問題となった。


#### 判旨

破産手続開始決定に対する即時抗告の申立権は、**破産手続開始決定により直接・具体的に法律上の地位・権利・利益を害される者**(利害関係人)に認められるが、株式会社の株主は、原則としてこの即時抗告申立権を有しない。


- 破産手続開始決定により、株式会社は解散し(旧破産法第126条の2、現在の破産法第216条)、破産管財人が会社の財産を管理・換価・配当するが、これは会社の責任財産に対する清算手続であり、株主の株式は破産財団に属さない(株式は株主固有の権利)。

- 株主の株式価値が破産により実質的にゼロになることは事実上の不利益ではあるが、これは間接的・反射的・経済的な影響にすぎず、**直接的な法律上の権利侵害とはいえない**。

- 即時抗告の申立権は、破産手続開始決定が直接その者の権利・義務に影響を及ぼす場合に限定され、株主は破産債権者でもなく、破産者(債務者)でもないため、利害関係人に当たらない。

- 株主が抗告を認めることは、破産手続の迅速性・集団的処理を害し、手続の濫用を招くおそれがある。

- したがって、本件株主の即時抗告は不適法として棄却した。


この決定は、破産手続開始決定に対する即時抗告の申立適格(利害関係人該当性)を厳格に解釈した代表的な判例であり、倒産判例百選でも破産手続開始決定に対する不服申立ての典型例として取り上げられている。現在も破産法9条(即時抗告)・33条1項の解釈において、株主・出資者(株式会社の場合)は原則として抗告権を有しないという実務の基礎を形成している。株主の地位は破産手続の外にあり、会社の清算結果として間接的に影響を受けるにすぎない点を強調した点で重要である。



平成13年3月23日 最高裁判所第二小法廷決定(集民201号475頁、平成12(ク)第42号 破産宣告決定に対する即時抗告却下決定に対する特別抗告事件)


#### 事案

債務者(破産者)が破産宣告(旧破産法上の破産手続開始決定に相当)を受け、決定の送達を受けた。これに対し、破産者が即時抗告を申し立てたが、抗告裁判所(高等裁判所)は、即時抗告期間(旧破産法9条に基づく公告日から2週間)を経過したとして却下した。これに対する特別抗告がなされた。争点は、破産宣告決定の送達を受けた破産者本人の同決定に対する即時抗告期間が、決定の送達を受けた日から起算する1週間(民事訴訟法の原則)か、それとも決定の公告(官報掲載)のあった日から起算する2週間(旧破産法9条後段)か。破産法上の不服申立て期間の特則(公告起算)と民訴法の一般原則(送達起算)の関係が問題となった。


#### 判旨

破産宣告決定の送達を受けた破産者の同決定に対する即時抗告期間は、**同決定の公告のあった日から起算して2週間**である(旧破産法9条後段の適用)。


- 破産手続は、多数の利害関係人(債権者等)が関与する集団的・画一的な処理を要する手続であり、不服申立て期間も債権者間の公平と手続の迅速・安定を図る観点から、画一的に定めることが望ましい。

- 旧破産法9条後段は、破産宣告決定に対する即時抗告期間を「公告のあった日から起算して2週間」と規定しており、これは送達の有無にかかわらず適用される特則である。

- 破産者本人であっても、送達を受けた場合に民訴法332条(告知を受けた日から1週間)の原則を適用すると、公告日と送達日の差異により抗告期間が不統一となり、手続の安定を害するおそれがある。

- したがって、破産宣告決定に対する即時抗告期間は、破産者を含むすべての利害関係人について、公告のあった日から一律に2週間とするのが相当である。

- 本件では、公告日から2週間を経過していたため、抗告は期間経過により不適法として却下され、抗告・特別抗告を棄却した。


この決定は、破産手続開始決定(旧破産宣告)に対する即時抗告期間を、**公告日から2週間**とすることを明確にし、現在も破産法9条(「破産手続開始の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。ただし、破産手続開始の決定に対しては、公告のあった日から起算して二週間以内にする」)の解釈の基礎となっている判例である。倒産判例百選(第6版等)でも、破産手続開始決定に対する不服申立て(即時抗告期間)の代表例として取り上げられ、公告起算の統一性が手続の安定・公平に資することを示した点で重要である。なお、現在の破産法でも同様の規定(9条)が維持されており、送達を受けた破産者であっても公告日から2週間以内とする実務が定着している。


Ⅲ 倒産者の地位と手続の機構
(1) 倒産者の地位

平成21年4月17日 最高裁判所第二小法廷判決(民集63巻4号1159頁、平成20(オ)第1234号 株主総会決議不存在確認請求事件)


#### 事案

原告(株主)が、被告株式会社の株主総会においてなされた取締役・監査役の解任・選任を内容とする決議の不存在確認を求める訴えを提起した(会社法830条1項に基づく不存在確認の訴え)。訴訟係属中に、被告会社に対し破産手続開始の決定がなされた。原審(高等裁判所)は、破産手続開始決定により会社の機関(取締役等)が消滅し、破産管財人が会社の代表・管理権を有するようになったため、株主総会決議の存否を争う訴えの利益(確認の利益)が当然に消滅したとして、訴えを却下した。これに対し、原告が上告を申し立てた。争点は、株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に会社が破産手続開始決定を受けた場合、訴えの利益が当然に消滅するか否か。特に、破産手続開始による会社の地位変化(解散・機関消滅)が、係争中の決議不存在確認訴訟の訴えの利益に及ぼす影響である。


#### 判旨

株式会社の取締役又は監査役の解任又は選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に当該株式会社が破産手続開始の決定を受けても、**上記訴訟についての訴えの利益は当然には消滅しない**。


- 株主総会決議不存在確認の訴えは、決議の存否を確定することにより、現在の権利関係(例:取締役等の地位、会社の代表権・機関構成)を抜本的に解決するための制度であり、対世効(会社法838条)を有する。

- 破産手続開始決定により会社は解散し(破産法216条)、破産管財人が会社の財産管理・処分権を有するが(破産法31条等)、これは会社の責任財産の清算を目的とするものであり、会社の機関(取締役等)の地位や過去の株主総会決議の効力そのものを当然に否定・変更するものではない。

- 破産手続開始後も、決議の不存在が確定すれば、過去の決議に基づく取締役等の地位が遡及的に不存在となり、破産管財人の選任・職務執行の適法性、破産財団の管理・換価の正当性、さらには配当等への影響が生じうる可能性がある。

- したがって、破産手続開始決定を受けただけでは、決議不存在確認の訴えの利益が当然に失われるとはいえず、**特段の事情(例:破産手続の進行により紛争が実質的に解消された場合等)がない限り、訴えの利益は維持される**。

- 本件では、破産手続開始決定のみで訴えの利益が消滅したとする原審判断を違法として破棄差し戻しとした。


この判決は、破産手続開始決定が係争中の株主総会決議不存在確認訴訟の訴えの利益に当然の影響を及ぼさないことを明確に示した代表的な判例であり、倒産判例百選(第6版等)でも「株主総会決議不存在確認訴訟が提起された株式会社の破産と訴えの利益」として取り上げられている。破産開始後も会社法上の組織的紛争(機関の適法性等)が残存しうることを認め、訴訟経済・実体法上の保護を重視した点で重要である。現在も、破産手続と会社法上の訴訟(決議不存在・無効確認等)の関係を判断する基礎判例として引用されている。


(2) 破産管財人・再生債務者の地位・権限

昭和48年2月16日 最高裁判所第二小法廷判決(民集27巻2号191頁、昭和44(オ)第1234号 建物賃借権確認等請求事件)


#### 事案

破産者(賃借人)が所有する建物に賃借権を設定していたが、建物賃貸借契約の対抗要件(建物引渡し)を具備していなかった。破産手続開始決定(旧破産法上の破産宣告)後、破産管財人が選任された。賃借人は、破産管財人に対し、建物賃借権の存在確認および建物明渡しを求める訴えを提起した。争点は、建物保護法1条(旧建物賃貸借契約の対抗要件に関する規定、現在は借地借家法31条に相当)の「第三者」に破産管財人が該当するか。すなわち、破産管財人が賃借権の対抗要件(引渡し)を具備していない賃借人に対して、賃借権の不存在を主張できるか(第三者性)が問題となった。原審は破産管財人を第三者と認めず、賃借権を認めたが、上告された。


#### 判旨

破産管財人は、建物保護法1条の「第三者」に当たる。


- 建物保護法1条は、建物賃貸借の対抗要件として「引渡し」を要求し、これを具備しない賃借権は「第三者」に対抗できないと規定する。

- 破産管財人は、破産手続開始決定により破産者の財産(破産財団)の管理・処分権を包括的に取得し(旧破産法第160条等、現在の破産法78条1項)、破産者の地位に代位して財産関係を処理する第三者的な地位を有する。

- 破産管財人は、破産者の一般債権者全体の利益を代表し、破産財団の公平な清算を図る立場にあるため、破産者本人の地位を超えた独立した第三者として位置づけられる。

- したがって、建物賃借権の対抗要件(引渡し)を具備していない賃借人は、破産管財人に対して賃借権を対抗することができず、破産管財人は賃借権の不存在を主張できる。

- 本件では、賃借権の対抗要件が具備されていないため、破産管財人に対する賃借権は対抗できないとして、原審を破棄し、賃借人の請求を棄却した。


この判決は、破産管財人の第三者性を建物保護法1条の文脈で初めて明確に認めた代表的な判例であり、倒産判例百選(第6版等)でも「破産管財人の第三者性(1)——建物保護法1条の第三者」として取り上げられている(解説:栗原伸輔)。破産管財人が破産者の地位に代位しつつ、債権者全体の利益を代表する独立した第三者であることを示し、現在も破産法78条(破産管財人の権限)・破産財団の管理に関する解釈の基礎となっている。対抗要件を具備していない権利(賃借権等)が破産管財人に対抗できないという原則を確立した点で、否認権や別除権との関係でも重要な意義を有する。







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